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次の第6ラウンドに入ると、貴子の右ストレートが明美の顔面をとらえた。一気に試合は貴子のペースへと変わり、試合は規定の第8ラウンドに突入。ここでは貴子が明美をロープ際まで追い込む場面もあった。最終ラウンド終了のゴングが鳴り、勝負の行方は判定に持ち込まれることとなった。3人のジャッジの判定結果は、1人のジャッジが75-75の採点となりましたが、残りの2人のジャッジは共に76-75の採点で貴子を支持となり、ポイント2-0のマジョリティディシジョンで貴子が辛くも勝利となった。それと同時に翌年の1月に予定されている2度目の日本タイトルマッチ挑戦も正式に決まった。試合の結果が出されて貴子は明美のところへ歩み寄った。

「以前世界タイトルマッチに挑戦しただけあって本当に強かったよ。いい試合だったよ。」

と貴子が言うと、

「あなたも、かなり実力あるね。次の試合、日本タイトルマッチ挑戦だってね。応援してるから。私も、もちろんがんばるよ。」

と明美が答えて、2人は抱き合った。明美が控室に戻って携帯電話を取り出すと、息子の幸太朗から1通のメールが入っていた。



 今日の試合、この試合先発登板した高柳が試合開始早々に先頭打者ホームランを打たれたんだけど、最後は箕輪のサヨナラツーランで3-2で逆転勝ち。チームは関東大会で優勝を決めたんだよ。


 幸太朗



 幸太朗からのメールを明美の試合を観戦に来ていた娘の真也と、この日は明美のセコンドに入っていた寛子が見ると、

「良かったじゃない。光良君、年内に公式戦復帰することができるんだ。」

と寛子が言った。

「幸太朗は勝ったけど、私は惜しくも負けちゃったんだよ。人生いろいろあるよ。息子のためにも、次の試合はがんばらなきゃ。」

と明美は言って、引退勧告が出なければ今後もプロボクサーとして続けていくことを決意したのだった。

 試合から2週間後、貴子は練習を終えて携帯電話のメールを確認すると、1通のメールが受信されていた。明美からのメールだった。



 たかちゃん、タイトルマッチがんばってね。試合が終わってからワタシ引退勧告が出るのではと心配していたけど、次も試合できそうなんだ。ちなみに、ワタシの次の試合、来年の春ごろの予定になりそう。ライバル選手の中には50歳近くになっても現役としてがんばっているボクサーもいるみたいだから。ワタシだって負けられないわ。たかちゃんのタイトルマッチ、応援に行くつもりだから、絶対にチャンピオンになってね。


 あけみちゃん



 貴子は明美からのメールを見終わると、再び練習へと戻って行った。

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