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7回終了時点で1-0で西浜学園リードで8回に突入した。華月学院の先頭打者を内野ゴロでアウトに打ち取り1アウトの場面で宇都宮洋輔が打席に入った。ボールカウント1ストライクからの2球目だった。谷本光が投げたスライダーが外角高めになったのを見逃さずに宇都宮洋輔のバットにジャストミートした。打球はライト方向に向かって夜空に向けて高く上がり、スタンドに到達。同点ホームランを打たれてしまった。試合の方は9回を終わった時点で1-1の同点で決着がつかず延長戦へと突入した。11回に入り、1人で西浜学園のマウンドを守り続けた谷本光の疲れはピークへと来ていた。この回の先頭打者の宇都宮洋輔をフォアボールで塁に出したのをきっかけに1アウト・ランナー満塁のピンチを作ったが、そこの場面をダブルプレーで切り抜けた。13回に入り、西浜学園は、この回の先頭打者の柳本淳が3塁打で出塁してサヨナラのビッグチャンスをつかんだ。もう、ここの場面ではランナーを1人でもホームインさせると勝負が決する場面だったので、相手バッテリーは次の打者以降二者連続敬遠で満塁にする作戦を取り、ここの場面では無得点という結果となった。次の14回、すでに、この試合で200球以上の球数を投げていた谷本光は華月学院打線を三者凡退に抑えた。この裏の攻撃は谷本光に打順が回ってくるイニングだった。先頭打者の長野がセンター前へのヒットで出塁、次の打者の箕輪忍がベンチの中の監督からのサインがなかったものの自らの判断でセーフティバントを敢行して結果として送りバントとなり、1塁ランナーの長野を2塁に進塁させて1アウトの場面で谷本光に打順が回って来た。そこで、監督の平田は、控えメンバーのうちの1人の背番号19の山根怜司を球審のところに伝令として行かせて、2塁ランナーの長野に代わって背番号17の1年生の次期上位打線候補のうちの1人の谷順平をピンチランナーとして途中交代で出場させた。プレーが再開され、谷本光は右打席に入った。1球目はボール、2球目はバットに当てて3塁方向へのファウルボールを飛ばした。打球は危うく3塁ベースコーチの背番号20の筒井浩輔に当たりそうになった。次の3球目だった。谷本光は自らのバットに夢を乗せて打球は3塁線に沿って外野へとボールが転がった。3塁塁審はボールが転がる方向を見て、

「フェア」

とジャッジした。打球はレフト線に沿って外野のフェンスへ到達。2塁ランナーのピンチランナーの谷順平がサヨナラのホームを踏んだ。この試合、14回を1人で投げ抜いた谷本光が自らのバットでサヨナラ勝ち。西浜学園が決勝へと進むこととなった。試合が終わった時にはスコアボードの時計の針は6時を回っていた。3時間半以上の熱戦だった。試合終了後に光良はリハビリの先生に結果報告をした。それから、しばらく経って光良の携帯電話に1通のメールが入っていた。



 チームは決勝戦進出だってね。勝って明治神宮大会へ進めば光良君の公式戦年内復帰が実現とのことで、それを実現させるためにみんなで一丸になって、ここまで勝ち進んだのだから。延長14回にファウルボールが3塁ベースコーチに当たりそうな場面があったよね。オレが高校球児だった頃はベースコーチはヘルメット着用じゃなかったんだよ。1つ間違ったら頭に直撃だったからね。実はオレ、高校時代にベースコーチをしていてファウルボールが当たって骨折したことがあるんだよ。そういえば、光良君。小笠原寛子ちゃん、光良君の公式戦復帰を楽しみにしているみたいだよ。いい報告できればいいよな。


 藤沢良平



 光良が病院でお世話になった理学療法士の藤沢先生からのメールだった。



 藤沢先生、今日は試合観に来ていたんだ。次の試合も、また応援してね。


 石井光良



との返事のメールを理学療法士の藤沢先生に送った。

 数日後、下校前のホームルーム終了後の廊下で谷本光と姉のみどりが偶然にも一緒になった。

「光、準決勝の試合だけで230球投げたんだってね。明日の試合も当然投げる予定でしょ。」

と、みどりが光に聞くと、

「お姉ちゃん、心配してくれてありがとう。明日の試合はライトで先発出場する予定になっているんだよ。監督からは、この日は肩を休めるようにとの指示が出されているんだ。明日の決勝戦はオレの代わりに隣のクラスの高柳が先発することになっているんだ。」

と答えた。

「光、明日は私も試合なのは知っているよね。」

と、みどりが言うと、

「うん。お姉ちゃん、今から試合前日の計量に行くんでしょ。」

と光が言った。

「そうよ。いつものように計量検査に合格しないと試合させてもらえないのよ。私はボクシングで、光は野球で、明日の試合お互いにがんばろうね。」

「お姉ちゃん、絶対に勝ってね。オレも野球がんばるから。」

互いの健闘を祈った。

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