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一方、会長室の中では、

「11月に吉見貴子と試合する予定の長野明美。順調に仕上がっています。おたくの望み通り、長野がKO勝ちできるように仕上げていきます。吉見貴子が、この試合でKO負けすれば、90日規定というルールで来年の1月に予定されている試合はできなくなる。そうなれば、江藤さん。おたくが望んでいた前日本ミニフライ級チャンピオンの西山梨香との対戦カードに変更して、おたくのジムに所属している江藤さんの娘さんとの対戦カードでフライ級の日本タイトルマッチの試合をしましょうよ。」

「西尾、おぬしもワルよのう。計画通り、事が進んだら、次は世界タイトルマッチ。うちのマナミが吉見貴子に次の試合の対戦相手として申し込んだ後、マナミを呼んで徹底的に叱りつけてやりましたよ。後は頼んだぞ。西尾。」

「わかりました。」

札幌エトウジムの江藤会長と西尾ジムの西尾会長との間で、こんな電話のやりとりが行われていたのだった。江藤会長と西尾会長との間の電話連絡が終わり、札幌エトウジムの方では、江藤会長が会長室から練習スペースの方へ出て、サンドバック打ちの練習をしているマナミのところへと近づいて行った。

「マナミ、練習の方は順調に進んでいるか。」

と江藤会長が聞くと、

「はい。」

とマナミは答えた。

「次の試合の対戦相手は、今のところ、マナミの希望通り吉見貴子とやらせる予定になっているのは前もって伝えていたよね。彼女、11月に長野明美という世界チャンピオンにも挑戦した経験のある41歳のベテランボクサーと対戦することとなっている。この試合の結果次第では対戦相手の変更もあるかもしれないので、そのつもりでいといてな。」

江藤会長は、貴子の前哨戦のことについてマナミに報告した。江藤会長が会長室へと戻ってから、

「やっぱりね。お父さん。私の次の防衛戦、以前から私と試合をやらせたいと熱望していた西山梨香とやらせたいのね。」

と、マナミは小声で言った。

 一方、貴子の方は所属ジムの原島会長の許可をもらって、東京の大西ジムへ出稽古に行っていた。

「たかちゃん。試合まで、あと1カ月切ったんだね。体重の管理の方は問題ないみたいと大西会長から聞いたよ。たかちゃんの今度の対戦カードのマッチメイキング。たかちゃんがタイトルマッチを戦う予定になっている対戦相手の日本チャンピオン江藤マナミの所属ジムの会長が、ミニフライ級とフライ級の日本タイトル2階級制覇を目指している西山梨香とのマッチメイキングをチャンピオンの初防衛戦の対戦相手として組ませたい策略らしいとのことを大西会長も言っていたよ。たかちゃんが今度試合をする対戦相手の長野明美は41歳のベテランで世界タイトルマッチにも挑戦した経験もあるとの話だけど、おそらく相手側も負ければ試合内容次第では引退勧告なんてことも考えられるみたいね。プロボクサーは37歳になると、ボクサーライセンスが原則として失効となるとのコミッションの規定があるとのことだから、よほどの実力者でコミッションがライセンスの更新を認めない限り、基本としてプロボクサーは37歳になると自動的に現役引退になるんだよ。それに、たかちゃんだって、この試合でKO負けすれば、KO負けに伴う90日規定で、KO負けした試合から次の試合までの間のインターバル(間隔)を91日以上置かなきゃいけなくなり、年明けすぐに予定されているタイトルマッチを戦えなくなるんだよ。江藤会長が考えているのは、たかちゃんがKO負けした際の90日規定だと思うわ。この試合は、日本タイトルマッチを戦うことが正式に実現させるためには絶対に勝たないとね。」

と杏奈は貴子を心配して、次の試合に勝てるように激励した。

「杏奈。いろいろと私のこと心配してくれてありがとう。昨年の夏に私と試合した次の試合から3試合連続KO勝ちしているんだってね。2週間前に行われた杏奈の試合。韓国の選手相手に1度はダウンを奪われたけど、逆転でKO勝ちしたんだってね。以前と比べて杏奈も強くなったよ。」

と貴子は杏奈の実力をほめた。

「3日前から再び練習に戻って、久々にジムの仲間達と再会したんだよね。そうそう、うちのジムにも新しく女子の練習生が入って来たんだ。たかちゃんが今度戦う長野明美と同じ西尾ジムに所属しているアトム級の日本チャンピオンの長井まどか。ボクシング始める前バレーボール選手だったことは知ってた?」

と杏奈は貴子に聞くと、

「私、知らなかった。ただ、こんな名前の選手がいるということは聞いたことある。有美子から聞いた話だけど、近々、1つ階級を上げてミニフライ級で戦うのではというウワサもあるみたいだよ。」

と答えた。

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