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寛子は貴子のところに近づいて、

「以前タイトルマッチを戦ったことだけあるね。私、もっと強くなるから。吉見さんもチャンピオンを目指してがんばってね。」

と言ってリングをあとにした。貴子が控室に戻ると、以前貴子がグローブを合わせた秀美の姿があった。

「貴子、よくがんばったね。今日対戦した小笠原寛子。うちの高校の野球部の石井が入院した先の病院の看護婦だったみたいで、生徒達が応援に来てたんだよ。もちろん、谷本みどりのデビュー戦のからみもあったみたいだけど。客席の一部を野球部が陣取って横断幕を掲げていたよ。リングサイド席の方で、江藤マナミが観戦していたよ。彼女、あさって試合とのことだから。どうも、貴子とやりたがっているみたい。」

とのことを言っていた。それから2日後、長井まどかの防衛戦にあたる日本女子アトム級タイトルマッチのアンダーカードとして組まれていた日本女子フライ級タイトルマッチが開催され、今までチャンピオンだった藤川奈々が世界タイトルマッチ挑戦に伴う新チャンピオン決定戦にマナミが出場。マナミは、この試合を難なく1ラウンドKOで勝利してチャンピオンとなった。試合終了直後の勝利選手インタビューで、

「次の防衛戦。吉見貴子と戦わせてもらいたい。」

と公言した。場内は騒然となった。かつて、貴子とマナミはデビューして間もない頃に4回戦でグローブを合わせた因縁のライバルで、その時はマナミは惜しくも敗れており、この時のリベンジを果たしたかったのだ。秀美から、そのことを知らされていた貴子はリングサイド席から、その試合を観戦していた。貴子はマナミから次の日本タイトルマッチの対戦を申し込まれることとなった。

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