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有里からのメールを見て、貴子も返事のメールを送った。



 今日は応援に来てくれてありがとう。今日は試合、負けちゃったけどね。次の試合は勝てるようにがんばるから、また応援に来てね。


 たかこ



 しばらくたって、

「もうバス出発時刻が近いから。また、次に試合のある日は、また応援に来るからね。」

と、ちえみは貴子に別れ際に言って、早足でバスの方へと向かって行った。

「タイトルマッチ挑戦が決まって、たかちゃんのお母さん、美容院のお客さんにもたかちゃんの試合の応援に来て。とたかちゃんの試合のことを宣伝していたとの話を、たかちゃんの友達の両親が経営している酒屋さんの主人から聞いたよ。」

と原島会長が言った。

「そういえば、お母さん。私の試合が決まったら毎回のように店の中や店の入口の前に私の出場する試合のポスターを貼っているから。メチャ乗り気だから。私のお母さん。以前と比べてお客さんも増えて。私は自慢の娘だって。ここ最近では、プロボクサーの娘がいる店ということですっかりおなじみとなった。今でも私のボクシングのことについてはお父さん、いい顔しないけどね。私のことを、あまり知らない近所の人達もたくさん応援に駆けつけてくれたのに、今日は終盤は不甲斐ない試合になってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。リターンマッチを目指して、また、がんばらなきゃね。私が勝ったら、そこの酒屋の自販機のジュースを私の試合の翌日だけ100円から50円にするつもりだと酒屋のおじさん言っていたんだ。本当に申し訳ない。」

と、貴子は初めて戦ったタイトルマッチを振り返ったのだった。会場から宿舎への帰り道の車の中で、

「有里の実家の酒屋さんの近くにある高校に通う高校生達も私が勝つことを楽しみにしていたんだ。昨年のプロ野球のペナントレースでは埼玉西武ライオンズが日本シリーズで優勝したから、その翌日は、そこの酒屋の自販機のジュースが1日限り50円で販売されたんだ。ジュースや肉まんを買いに来ていた高校生達にも、私が試合に勝ったら自販機のジュースを試合の翌日1日限り50円で販売すると言っていたからね。そう言えば、思い出したよ。もったいないことをしちゃったな。」

と貴子はつぶやいた。

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