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2度のダウンが貴子の勝敗を占う上で3人のジャッジの採点が大きく左右した。この試合の3人のジャッジの採点は、1人のジャッジが75-75でしたが、残りの2人のジャッジは共に76-74で奈々を支持となり、ポイント2-0のマジョリティディシジョンで奈々の初防衛が成功となり、貴子はチャンピオンベルトへの最初のチャンスは惜しくも敗れてタイトル獲得とはならなかった。しかし、奈々にとっては貴子との試合は、勝ったとは言え辛くも勝った試合だった。貴子は序盤の善戦が実らず、終盤の2度のダウンが響いて、残念ながらチャンピオンベルトの獲得はならなかった。控室に戻った貴子は、

「これが勝負の厳しさか。」

とつぶやき、タイトルマッチに勝つことの難しさをかみしめた。試合終了後にジャッジングペーパーを見せてもらった原島会長は、

「勝てていた試合だったのに、実にもったいない。」

と悔しがった。貴子は、せっかく勝てていた試合を2度目のダウンが試合の敗因となってしまった。試合終了後、バスで大阪まで応援に駆けつけてくれたファンの前に貴子は顔を出した。

「わざわざ今日の試合のために応援に駆けつけてくださいましてありがとうございました。残念ながら試合の方は敗れてしまいましたが、また次のタイトルマッチのチャンスを目指してがんばりますので、今後とも応援の方よろしくお願いします。」

とあいさつをした。その直後だった。

「たかちゃん。今日の試合残念だったね。」

と貴子のいとこのちえみが貴子の方に向かって話しかけた。

「終盤2度にわたってダウンを喫したのが大きな敗因だったなあー。序盤に一気に攻めたことでジャッジの採点の方では有利だと判断したのが災いの始まりだった。試合する以上は絶対に相手をKOしないとね。今日の試合の負けは本当に悔しかった。もっと強い相手と当たった時に、今日のような試合をしていたらKOされてしまうかもしれない。以前、私のことが好きだったはるくんを悲しませたくないから。」

と貴子は今日の試合を振り返った。

「はるくんのこと。まだ、たかちゃん忘れられないみたいね。はるくん、今、付き合っている人がいるのは知ってるでしょ。本当は、はるくんも観に行くつもりだったみたいなんだけど、はるくんが付き合っている彼女が先生をしている先の高校の系列校のサッカー部が全国高校サッカー選手権の決勝戦まで勝ち上がって、今日はカップルで埼玉スタジアムにはるくんの彼女の赴任先の系列校のサッカー部を応援に行ったんだ。夕方、連絡が入ってきて、応援していた高校、今日の試合で敗れて準優勝に終わった。と連絡が入っていたよ。」

とちえみは貴子に、春樹が貴子の応援に来れなかった理由を説明した。

「はるくん。今日、私の試合を観に来れなかったのは残念だったけど、彼女とはうまくいってるんだね。私、はるくんにはフられちゃったけど、今日の試合、かっこよく決めたかったな。」

と再び今日の試合の敗因のことで悔しがった。

「はるくんとはるくんの彼女のことの詳しいことは、私の同僚で、昨年の春に入ったばかりの相川さんからいろいろと聞いているから。話によると、どうも、この2人。来年あたり婚約なのでは?との予感。とも相川さんの方から、そのことについては話題になっていたから。」

とちえみが春樹の今後のことについての身の上話をすると、

「私は、あのカップルを応援する立場で見守っているから。もし、はるくんがその彼女と婚約したら、私は試合でKO勝利を飾って、はるくんに婚約の祝砲をあげるつもりだから。次のチャンスが巡って来るまで、次の試合以降とにかく勝ち続けないとね。」

と、貴子はリターンマッチに向けて再起の決意を決めた。しばらくたって、貴子の携帯電話の発信音が2回鳴った。貴子の小学校時代からの同級生の有里からのメールだった。今は結婚して服部有里になっていた。



 今日の試合、せっかく勝てていた試合だったのに本当にもったいない。たかちゃんを応援する立場として、終盤に2度もダウンを奪われて、観ている私もハラハラしたし、1歳になる里紗もしまいには泣き出してきて。試合終了後に主人からメールが来て、試合もう終わったんだろ。里紗のことも心配だから遅くならないうちに早く帰って来いよ。とのメッセージが来ていたんだ。本当は控室の方まで足を運びたかったけど、控室の方まで行ってたかちゃんと話していたら帰りが遅くなるし、主人も心配しているから、試合が終わって、すぐに家に帰ったんだ。今日の試合、たかちゃん、負けちゃったのは残念だけど、次の試合は必ず勝って、再びタイトルマッチのリングに上がれるように。私の方からも応援するから。ファイト!!


 服部有里

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