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そして、有美子のタイトルマッチの日がやってきた。前日の計量では有美子、仁美の2人共1度でパスをした。有美子のタイトルマッチの当日は、春樹は保育園のクリスマスパーティーのため観戦に行くことができなかったため、偶然にも当日は試合の観戦に行くことができた大学の医学部の卒業論文と医師国家試験が近い中ではありながらも恵美は有美子の応援に行くことができた。そのため、

「最高の写真を撮れればいいよね。」

と春樹と携帯電話で話していた。恵美が春樹との携帯電話での通話が終わってから、しばらくすると、有美子と仁美が対戦するタイトルマッチの開始のゴングが打ち鳴らされた。有美子は、アトム級との2階級制覇を目指す手強いライバル仁美を相手に沈着冷静な試合運びを演出した。最初の2ラウンドは、両者共に互角に試合を進めた。次の第3ラウンド、仁美の右ストレートが出た直後に低い姿勢から有美子の左アッパーを仁美の顔面に当てた。しかしながら、アトム級時代に長井まどかと引き分けた実績のことあるだけに、仁美もしぶとく有美子に食い下がった。第5ラウンドには、仁美の左フックが有美子の顔面にヒット。有美子は鼻血を出し、デビュー以来初めての出血も経験した。次の第6ラウンド以降は、有美子は試合中に出血した患部を気にしながら、積極的に攻めのボクシングを演出した。最終第8ラウンドでは、いつ倒されるかわからないくらいの激しいパンチの打ち合いとなった。試合終了間際に、1度有美子の傷の具合を見るためにドクターチェックが入ったが、有美子と仁美はフルラウンドを戦い抜いた。試合の勝敗の行方は判定に持ちこまれた。3人のジャッジの採点は1人のジャッジが77-75で仁美を支持したが、残りの2人のジャッジは共に78-74の採点で有美子を支持。結果は2-1のスプリットディシジョンで有美子が念願の日本チャンピオンとなった。勝った直後の勝利選手インタビューで、

「今日戦った相手が今まで戦ったライバルの中で一番強かったです。世界を目指す上で、もっと強い相手と戦う機会が増えるかもしれないけど、次の試合も勝てるようにがんばります。応援の方、よろしくお願いします。」

とのメッセージをファンに送った。

「ヤッターッ。今日からチャンピオンだあーっ!!たかちゃんも試合近いでしょ。がんばってね。」

と有美子は貴子にエールを送った。

 年も明けて正月も過ぎて、いよいよ貴子の試合の日が近づいてきた。試合前日の計量日の前日に大阪入りした貴子は、宿泊先のホテルで、今度対戦する相手の藤川奈々のことについての研究を原島会長としていた。

「藤川奈々は、元アマチュアチャンピオンという実績で、正確なパンチを武器に自分のペースに持っていく相手だ。スタミナもあるので終盤まで持ち込むと手強い。だから、序盤から攻めて出鼻をくじかせば勝機もある。」

とのアドバイスを貴子は受けた。試合前日の計量では、貴子と奈々の2人共リミット体重の50.8kgで1発で合格した。試合当日、いよいよ貴子の出番が近づいてきた。控室で、

「泣いても笑っても、この試合が大勝負だぞ!!」

と原島会長から言われた。ついに、貴子の出番がやってきた。貴子は青コーナーからのリング入場となった。

「赤コーナー。112パウンド。日本女子フライ級チャンピオン。南港ワールドジム所属。藤川奈々。」

「青コーナー。挑戦者。112パウンド。日本女子フライ級6位。原島ジム所属。吉見貴子。」

とリングアナウンサーからコールされた。貴子と奈々はレフェリーからリング中央に呼ばれて、試合をする上での注意を受けた。奈々にとっては初防衛戦。貴子にとっては初めてのタイトルマッチの試合。ついに試合開始のゴングが鳴らされた。序盤から打ち合いの勝負に出た貴子に対して奈々も応戦。序盤から激しく打ち合う内容の試合となった。第1ラウンド終了後、奈々は、

「この相手、まともに打ち合ったら、このままではヤバい。倒される。」

と悟った。貴子にとってはチャンスだったが、第2ラウンド以降、貴子のパンチ力を知った奈々はカウンター狙いの作戦に変更。第3ラウンド、一瞬のスキから貴子の右フックが奈々の顔面にヒットした。1度はロープ際まで追い詰めたが、奈々もしぶとくクリンチで逃げ、なかなかダウンを奪うチャンスにまで至らなかった。中盤に入って以降も貴子のペースで試合を進めていたが、奈々は、かつてフルマラソンをしていたことから他の選手と比べてスタミナには自信があった。終盤に差し掛かった第6ラウンドだった。貴子は一瞬のスキから奈々の左フックをもらいダウンを奪われた。貴子は必死に立ち上がり最終第8ラウンドまで戦い抜いたが、そこを境に最後は奈々に試合の主導権を持って行かれてしまった。試合終了間際にも、貴子は、奈々の右アッパーをもらいダウンを奪われた。

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