2

46ページ


 西浜学園高校の文化祭当日。学校内で谷本みどりという2年生の女子生徒のことがウワサになっていた。彼女、実は1年生の時にアマチュアボクシングの全国大会で優勝して、全校集会でも一度校長先生の話で話題になっていた人物が9月で17歳となり、11月に行われるプロテストを受ける予定となっていたからだったのだ。ちなみに彼女、春樹の働いている保育園の先輩男性保育士の薫の女房のえりなが担任をしているクラスの生徒とのこと。春樹の彼女の麗奈も、この年は2年生の担任で2年B組を受け持っていた。そう言えば、麗奈が担任を受け持っていた2年B組の方にまで、谷本みどりのプロテスト受験のウワサは広まっていた。

「2-Eの谷本知っとるか。実は、その谷本ってコ。中学生の頃に、1年生の担任を受け持っている三井に憧れてボクシングを始めたらしいで。」

とのウワサをある男子生徒が話していた。今年の文化祭の麗奈のクラスの出し物は喫茶店。西浜学園高校の文化祭にやって来ていた春樹は、麗奈のクラスの出し物の喫茶店でショートケーキとコーラを注文した。そこで、春樹と麗奈は偶然同席することとなった。

「春樹。来てくれたんだね。今年の文化祭の私のクラスの出し物なん。ゆっくり楽しんでね。」

と麗奈は春樹に言って、足早に持ち場に戻った。その直後、春樹の友達の鉄道マニア仲間の碧がやって来た。

「あっ。春樹先生じゃない。」

と碧は春樹に声をかけた。

「もしかしたら、碧だろ。」

と春樹は言った。

「オレの同級生の谷本のことは知ってるよね。」

と碧が言うと、

「もう、既に知っとるよ。ちえみから聞いた。」

と春樹は答えた。

「ちえみと言ったら、もしかして、相川先輩が就職したバス会社の先輩だろ。」

と碧が聞いたら、

「そういえば、相川恭子さんでしょ。ちえみから聞いたよ。」

と春樹は答えた。

「ちえみと春樹先生が言っていた相川先輩の職場の先輩の坂井ちえみさんとプロボクサーの吉見貴子がいとこ同士ということは春樹先生は知ってると思うけど。谷本みどりというヤツ。吉見以上の逸材みたいとのウワサとの話を、オレの幼なじみで谷本と同じクラスメイトのサッカー部の平井から聞いたよ。」

と碧は谷本に関する情報を提供した。

「久しぶりだな。コーラおごってやるよ。」

と春樹が言うと、

「ありがとうございます。」

と碧は春樹に礼を言った。

「オレの友達の平井から聞いた話だけど、谷本みどりが、もし、プロテストに合格したら、デビュー戦はいきなり6回戦からというウワサみたいだ。結構期待されているみたいだ。」

との情報を碧は春樹に教えた。

 それから2週間後に行われたプロテストで谷本みどりは合格。B級のボクサーライセンスを取得した。木枯らしが吹き、冬の寒さが近づいてきた11月の末のことだった。原島ジムに練習にやって来た貴子は、ジムの中に入ったと同時に会長室へと呼ばれた。

「たかちゃん。いよいよタイトルマッチのチャンスがやってきたぞ!!来年の1月13日に大阪でチャンピオンの藤川奈々への挑戦となる日本タイトルマッチを戦うことが決まった。もちろん、受けるだろ。」

と原島会長から言われ、

「はい、がんばります。」

と貴子は答えた。プロボクサーにとっては一生に一度あるかないかのビッグチャンスをつかんだ貴子は、日本タイトルマッチ挑戦が決まり大いに喜んだ。貴子と同じジムに所属している有美子も空位になったミニフライ級の日本タイトルを懸けてクリスマスに東京・後楽園ホールで西澤仁美と対戦することが決まっていた。寒さが日に日に増し始めていた12月の空の下、有美子と貴子の2人はチャンピオンを目指してロードワークにも力を入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る