ROUND3

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ROUND3


夢にまで見ていたタイトルマッチ



 貴子の試合が終わってから3週間後、世界タイトルマッチに挑戦するために藤田紗理奈が返上した女子フライ級の日本チャンピオンのベルトを懸けて藤川奈々と小谷のりこが次期日本チャンピオンを懸けて大阪で試合をすることとなった。奈々と対戦するのりこは春樹の高校の1年後輩。と、いうことは貴子のいとこのちえみとは同級生ということになるんだ。ちなみに、ちえみとのりこは、ちえみが小学5年生の時に貴子の通っていた小学校から転校して行った先の小学校に行って以降、中学校・高校まで同じ学校に通っていた友達なのだ。もちろん、貴子ものりこのことは知っていた。貴子が高校生だった頃、ちえみも電車通学だったので登下校時に貴子の自宅の近くの最寄駅で入れ替わりになるので、よく見かけていたのだった。この日は、ちえみは仕事が休みだったため、のりこを応援するためビデオカメラを持参して大阪まで応援に駆けつけた。試合の方は、アマチュアの大会で過去に優勝経験のある奈々が優位に試合を進めていった。終盤の第6ラウンド、のりこは一瞬の油断から奈々の右フックをもらいダウンを奪われた。最終的に、この試合は規定の8ラウンドを戦って判定に持ち込まれ、奈々の判定勝利となった。ポイントは3-0。3人のジャッジのうち1人のジャッジが奈々に80点満点のフルマークを付ける内容だったため、のりこの惨敗に終わった。試合終了後、ちえみはこの試合を録画したビデオカメラをカバンにしまった直後、貴子のケイタイにメールを送信した。



 たかちゃん。おそらく、次はタイトルマッチ挑戦の予定でしょ。今日、大阪で女子フライ級の日本タイトルマッチが行われて藤川奈々が勝った。対戦相手が、のりちゃんだったので、私、のりちゃんの応援のため会場まで応援に行ったけど、残念ながら負けちゃったよ。明日は昼から仕事なんで夜行バスで東京に戻るから、ビデオの方楽しみに待っててね。


 ちえみ



とのメッセージだった。

 それから1カ月後、原島ジムに所属している男子プロボクサーの宮沢直紀が前チャンピオンが現役引退したことに伴い空位となったウエルター級の日本チャンピオンを懸けて彼にとっての因縁のライバル藤村雅紀と対戦することとなった。この試合が行われる日のアンダーカードでは、今度有美子と対戦する予定で話を進めていた小嶋有紀の女子ミニフライ級8回戦が組まれていた。この日は土曜日。春樹は高校の先輩の宮沢から

「オレ、今度タイトルマッチ戦うから応援に来てよ。」

と誘われていた。その日は、春樹は宮沢と同じ陸上部に所属していた井野翔という春樹の同級生と一緒に観戦していた。今日は試合前に宮沢に花束を渡す予定になっていたため2人はスーツ姿での観戦となった。会場では既にアンダーカードの試合が始まっていた。間もなくして、小嶋有紀の出番となった。小嶋有紀は現在ミニフライ級の日本ランキング9位となっており、今回の対戦相手はミニフライ級の日本ランキング4位の尾崎美咲との対戦となった。試合開始のゴングが鳴った。開始早々から積極的に打ち合いに持って行こうと攻めに出た有紀だったが、美咲はある程度の距離を置くスタイルでカウンター狙いのボクシングとなった。第1ラウンド終了後のインターバル、

「相手はカウンター狙いで終盤に勝負に出るから出鼻をくじけ!!」

とのセコンドからの指示があった。しかし、次の第2ラウンド。攻めに出るボクシングで一気にこっちのペースに持って行こうと考えた有紀だったが、以前の真理奈との試合と同様、早いラウンドで美咲のカウンター攻撃の左アッパーが飛び、有紀のアゴにヒット。ダウンを奪われた。1度は立ち上がったものの、最後は逆にロープ際へと波状攻撃をかけられ、あえなくTKO負けをレフェリーから宣告された。試合終了後、有紀は黙ってリングをあとにした。

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