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第34話
⑥
麗香の試合が行われる当日。貴子たちの周りでは、麗香の試合の対戦相手のことで話題になっていた。今回の対戦相手は、かつてキックボクシングの世界では無敵と言われ、5つのキックボクシングの世界タイトルの団体の世界チャンピオンのベルトを獲得して知名度抜群の藤田紗理奈との試合だった。試合の方は、残念ながら8ラウンド判定負けに終わり、麗香にとっては初めて味わう悔しい敗戦となった。麗香がリングに上がると、ほとんどのお客さんが紗理奈を応援していたことから、生まれて初めて完全アウェー状態での試合となった。世界タイトルマッチへのチャンスが遠のいてしまってショックが隠し切れなかった麗香は、試合終了後の控室では、試合に負けた悔しさから、かなり落ち込んでいた。
それから2週間後、貴子がジムに練習に来たら、麗香が米国へ向けての旅支度を始めていた。秋ぐらいまで、麗香はボクシングの腕を磨くため、米国の方でトレーニングをすることとなったのだった。もしかしたら、その間に1試合するかもしれないとの話だった。貴子が通っている専門学校が夏休みになる前のことだった。貴子の友達の綾香からメールが入ってきた。
今まで住んでいたアパートを引き払って、高校時代の友達と共同生活をすることとなったから。
あやか
との内容だった。ある休みの日、貴子は、綾香の新しい住まいへと遊びに行くこととなった。綾香の新しい住まいとなったシェアハウスは、東京のお台場海浜公園の近くにあった。シェアハウスに向かう途中、こんな話を綾香がした。
「実は、昨年のクリスマスのことだったかな。プロテニスプレーヤーをしている遥から電話がかかって来て、「クリスマスパーティーをするから一緒にやろうよ。」と遥が暮らしているシェアハウスへ誘われたんだ。で、そこで遥たちと一緒にクリスマスパーティーをしたら、遥から「綾香が今暮らしているアパートよりも、こっちの方が学校に近いよ。部屋の方、2つほど空いているから一緒に暮らさないか。」と、お誘いがあって、そっちの方に引っ越すことになったんだ。」
そうしているうちに、綾香が暮らしているシェアハウスに到着した。ドアを中から開けたのは、プロキックボクサーの伊東愛梨だった。
「綾香。お客さん。」
と、愛梨が聞くと、
「そうよ。専門学校の友達の吉見貴子さん。」
と、綾香が貴子を紹介した。
「ここで一緒に暮らしている杏奈から、吉見さんのことは聞いているよ。女子プロキックボクサーの伊東愛梨。よろしくね。」
と、貴子に自己紹介した。貴子と綾香は、部屋の中に通されて、お茶を出してもらってから間もなく、綾香と一緒に暮らしている遥と杏奈が帰ってきた。
「綾香の友達の吉見貴子さん。」
と、愛梨が遥に紹介した。
「綾香の専門学校の友達だってね。私は、内田遥。綾香の高校時代の友達でプロテニスプレーヤーをしているの。よろしくね。」
との自己紹介があった。しばらく経ってから、杏奈が貴子と綾香がくつろいでいるリビングの方へとやって来た。
「吉見貴子さんだったよね。もしかして、プロボクサーしてるでしょ。」
と杏奈が聞くと、
「そうよ。」
と貴子が返事した。
「そうなの。私は大久保杏奈。実は、私もプロボクサーなんだよ。ボクシングをやり始めたキッカケについては、今回は言わないけど、ここの近くの大西ジムに所属しているんだ。明日、ジムで練習するから出稽古においでよ。」
と杏奈は貴子に大西ジムでの練習に誘った。翌日、貴子は杏奈と会う約束をしていた大西ボクシングジムへと足を運んだ。ジムの中に入ると、杏奈がちょうど更衣室からトレーニングウェアに着替えて出て来たばかりだった。
「ジムの奥の方が女子更衣室だから、早く着替えておいでよ。」
と、杏奈から女子更衣室の場所を教えてもらうと、貴子は更衣室の中に入った。しばらく経って、トレーニングウェアに着替えてジムのフロアに出てきた貴子は、軽くウォーミングアップをした。練習が始まって1時間半ほどが過ぎた頃だった。
「たかちゃん。1ラウンド2分、2ラウンドのスパーしようよ。」
と杏奈に誘われて、杏奈と貴子はリング上で軽く試合形式に近い形でスパーリングをした。練習が終わってから、大西ジムの会長が会長室から出てきた。
「今日は、うちのジムに出稽古に来たんだってね。吉見が練習に来る前から、既に、出稽古の件については原島会長の方から連絡が入っていたんだよ。話聞いたら、結構強いんだってな。もしかしたら、うちのジムの選手と対戦ということもあるかもしれないから、もし、そうなったら容赦しないからな。がんばれよ。」
と貴子に激励した。
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