第33話
試合当日、貴子の試合は、この日のイベントの後ろから3番目の順番のプログラムだった。この日は、貴子のいとこのちえみは、土曜日だけれども、たまたま休みのローテーションとなっていたため、観戦に来ていた。試合会場のロビーで、たまたま春樹が麗奈と一緒に観戦に来ていて、偶然、ちえみと再会することとなった。
「はるくん。隣にいるのは、はるくんの彼女なの。」
と、ちえみに聞かれると、
「そうよ。3カ月くらい前から付き合い始めたのだ。」
と麗奈が答えた。
「デート?」
と、ちえみが聞くと、
「今日は午前中から2人で、東武鉄道の特急スペーシアで日光の近くまで行って、ここから宇都宮に立ち寄って有名な『宇都宮餃子』を食べてから、こっちへやって来たんだよ。」
と春樹が答えた。ちえみは、春樹の手元を見て、
「お土産だろ。おそらく、加工食品の宇都宮餃子と見たけど。」と聞くと、
「その通り。宇都宮で買った土産物の加工食品の宇都宮餃子。家で、家族とゆっくりと食べようかと思っているんだ。」
と春樹は答えた。そこに、貴子が控室からやって来て、
「試合が終わったら、私、それ食べたい。」
なんて言い出した。
「今日の試合に向けて、今まで減量していたんだし、1箱あげたら。」
と、麗奈が言ったので、
「そうするか。」
と春樹は答えて、ちえみに土産物の宇都宮餃子の入った箱を1箱渡した。
「たかちゃん。試合が終わったら一緒に食べようね。」
と、ちえみは貴子に言ったら、
「うん。」
と、貴子は返事した。客席に着いた後、春樹は、
「今まで減量して腹減らして、今日の試合に挑んでいるんだから、目立たないようにしまっておこうや。」
と言って、自分のナップサックに土産物の宇都宮餃子の入った箱が入った袋をしまった。土産物の宇都宮餃子の入った箱をナップサックに入れてから間もなく、リング上の方では、試合に挑む選手が入場していた。
「見られなくてよかった。」
と春樹は言った。決して、意地悪をしたワケではなかった。それだけ周りに気をつかっていたのだ。いよいよ、貴子の出番がやってきた。リング上で、貴子とミノリがグローブを合わせた。久しぶりの試合だった貴子は、序盤はあまりいい動きができず、第2ラウンドには一度ダウンを奪われてしまった。このラウンド終了後、原島会長から、
「なにをモタモタしてるんだ。こんなペースで試合をしていたら必ず負ける。一気に勝負に出るぞ!!」
と言われた。第3ラウンド以降は、ダウンを奪われずに無難に試合が動き、この試合のターニングポイントともなった第6ラウンドへと入った。開始から30秒だった。貴子の右ストレートが顔面に直撃。ミノリはダウンを喫した。ここの場面では立ち上がったミノリだが、このラウンドが始まってから1分15秒が経過した頃だったか、一気にロープに詰め込んで攻め続けていた貴子に対して、レフェリーが割って入って、
「ストップ。」
と言われて試合が止められた。その直後、レフェリーはミノリの口からマウスピースを取り出し、TKOを宣告した。試合終了後、
「タイトルマッチ目指してがんばりや。応援しているから。」
とミノリは貴子に言った。残念ながら、TKO負けに終わってしまったミノリの引退試合だったが、今までのミノリの活躍を敬して、貴子はミノリの右手を高々と上げて、お客さんの前で、お互いの健闘をたたえ合った。
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