第32話

それから2週間後の日曜日、昨年の秋に結婚して新婚間もない真理奈が復帰第1戦を戦い、4ラウンド判定勝利で復帰戦を飾った。その日のメインイベントは、秋に貴子がKO負けした相手の武田有美がフライ級の日本チャンピオンをかけての試合が組まれていた。対戦相手はミニフライ級との日本チャンピオン2階級制覇を目指して、フライ級に階級を上げた西山梨香だった。試合開始前、控室近くの廊下で貴子と有美とが偶然再会した。

「いよいよ試合だね。相手は2階級制覇を目指している選手。かなり手強い相手だね。」

と貴子が言うと、

「相手は確かにそうよ。だけど、強い相手と当ててもらったからには絶対に勝ちたい。必ず相手を倒すつもりで戦うから。」

と有美は言った。貴子がリングサイド席に戻った時には、間もなく試合開始のゴングが鳴らされる瞬間だった。試合開始のゴングが打ち鳴らされた。相手はさすがに、ミニフライ級でかつて日本チャンピオンだった強敵らしく、有美のふところに飛び込んできた。序盤は一進一退の攻防となった。第4ラウンド、有美は梨香の一瞬のスキを見逃さずに右アッパーを顔面に当てた。ここで有美はペースをつかんだが、相手の梨香の方も、第6ラウンドには左フックを有美の顔面に当てた瞬間、場内が一気に大歓声で沸き、このラウンドでは有美がロープを背にすることもあった。試合は最終8ラウンド目まで戦うこととなり判定となった。3人のジャッジの採点は77-75の採点が2人で一方が有美を支持となり、残りの一方が梨香を支持する構図となり、3人目のジャッジは78-74で有美を支持の構図となり、ポイント2-1のスプリットディシジョンで有美がチャンピオンとなった。試合終了後、貴子は有美の控室に入ることが許され、そこで、

「かなりきつい試合だったよね。だけど、勝てて良かったよ。日本タイトル獲得おめでとう。」

と有美に言った。

「たかちゃん、近々試合なんだってね。私、たかちゃんを応援するから。がんばってね。メールアドレス教えてあげているから、たまにはメール送ってきてね。」

という有美からの返事があった。この日は偶然にも貴子と対戦予定のミノリと試合会場でバッタリと会い、有美の試合を一緒に観戦した。帰り道にミノリが、

「今日の晩御飯、うちの家族と一緒に食べない?」

と聞かれた貴子は、

「今夜は呼ばれようか。」

と返事をした。スーパーで買い物をすませたミノリは家族の待つ自宅へと急いだ。実は彼女。1児の母だったのだ。ミノリが家に帰ると、息子の真樹君と彼女の旦那の真美さんが帰りを迎えてくれた。家の中に上げてもらった貴子は、ミノリの家族にあいさつをした。

「今度、私と対戦することとなった吉見貴子さん。」

とミノリが家族に貴子を紹介した。

「かつて、日本タイトルを持っていた頃に、石田理恵子との防衛戦に敗れてタイトルを失って以来、勝てていなんだよな。今年で36になってしまうし、この試合を最後に引退しようかと思っているんだよ。それに、家族との時間も作りたいしね。いろいろと家族には心配かけたから。」

と、今までのことを振り返ったミノリ。しばらく経つと、テーブルに食事が出てきた。

「減量中でも、ある程度は体力つけなきゃアカンで。遠慮しないで食べて。」

と、貴子はミノリに言われた。

 試合前日、試合前の計量検査があった。今回はうまいこと体重が落ちなかった貴子は、計量オーバーになるのではと心配しながら体重計に乗った。

「50.8kg。リミットいっぱい。合格。」

と計量の係から言われると、貴子は一安心した。

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