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第22話
②
貴子とあずさが出場した試合から1カ月が経ち、いよいよ夏休みが近づいてきた。千晴にフられた春樹は、休日の鉄道小旅行のことしか頭になかった。今度の休みの日は銚子電鉄に乗って、名物のぬれせんべいを土産に持って帰ろうという計画を立てていた。そんな時、先輩の薫が、
「今度の休みの日、お昼ごはん、一緒に食べないか。」
と誘ってくれた。
「今度の休みの日か。薫先生、ええで。一緒に昼、食べようや。」
と春樹は喜んで、その誘いを受け、銚子電鉄に乗る計画を延期することとした。
「オレの女房の同僚の女性が、大の鉄道マニアなんだよ。来るんだったら紹介してやるで。春樹。」
と、薫は言ったのだった。結局、今度の日曜日は、春樹は、先輩の薫と食事に行く約束となった。仕事帰りに、春樹の携帯電話にメールが1件入ってきた。恵美からのメールだった。
「メールはできるだけやめてくれ。」
と言いつつメールを見たら、
8月3日、後楽園ホールへ一緒に行かないか。オマエが目つけていた武田有美。試合だから。
恵美
もう1件、メールが入ってきた。
8月3日に、あずさ先生が女子フライ級6回戦で中澤圭子と試合することが決まりました。今回は5歳児クラスの園児2人と一緒にリングに入場予定との話を聞きました。
千晴
久しぶりに千晴からメールが来た。昨年のクリスマスに、試しにメールをして以来だったのだ。
千晴さん。お久しぶり。あずさ先生が5歳児クラスの担任との話は、オレの同僚の薫先輩から聞いた。薫先輩も、格闘技が好きらしくて、すでに、オレのところに情報は入ってた。あずさ先生が園児と一緒に入場ということは、あずさ先生と同じクラスの担任でコンビを組んでいる千葉という男性保育士も来るってことだよな。あずさ先生が千葉とコンビを組んでいることも、薫先輩から聞いたよ。
春樹
春樹君。千葉先生のこと知ってるの。
千晴
オレ、千葉先生とは会ったことないけど、薫先輩の後輩との話を聞いた。
春樹
こんなメールのやりとりがあった。
一方、原島ジムの方では、2週間半ぶりに貴子が練習を再開した。そんな中、貴子の所属ジムに1人の女性が新たに入会した。春樹の同級生の有美子だった。
「今日から、ここでお世話になることとなります石本有美子です。よろしくお願いします。」
貴子が練習を再開する1週間前に、しおりは現役を引退、ジムを辞めていた。有美子が、しおりと入れ替わる形でジムに入会し、ジムも再び活気が戻ってきた。真理奈の方も、次の試合が決まった。8月3日に東京・後楽園ホールで行われる予定のイベントに出場する予定で、勝てばランキング入りする可能性だってあるのだ。真理奈にとっては、初めての6回戦での試合だったので、期待と不安を交錯させながら練習に励んでいた。貴子のジムの新入りの有美子は、幼稚園の頃から空手を始めていて、腕前は初段の実力だ。彼女の父親は『石本道場』の師範でもあるのだ。しかし、彼女にとっては、ボクシングをすることで、もっと美しくなりたいという願望があった。夢は、ラスベガスのリングで世界タイトルマッチを戦うことだ。だけど、ボクシングの場合は、ルール上、顔面打ちもOKだ。有美子の両親は、顔面に傷が残るのでは。と心配だった。趣味は映画鑑賞で、特に1980年代から1990年代にかけて制作された映画を観るのが好きだ。映画スターやスーパーモデルのような美しいスターになるのが有美子の夢であるのだ。梅雨が明けて、暑い夏がやって来た、ある日のこと、貴子はジムの会長室の中に入った。
「失礼します。会長。私の次の試合、いつですか。」
「今のところ、9月の半ばの予定だね。まだ、対戦相手の方が決まっていないので、また後で伝えるから。」
「はい。失礼しました。」
との話のやりとりがあった。
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