ROUND2

第20話

ROUND2


ランキング入りだ!目指せ!!タイトルマッチ



 ボクシングの怖さを思い知らされた貴子たち。しおりにとっては、大きなショックだったことであろう。1本の国際電話がかかってきた翌日から、しおりはずっと練習に来ていなかった。話によると、引退というウワサも流れていたのだった。4月は入学・就職のシーズン。貴子は、美容師を目指して、この春から美容師の専門学校に通うこととなった。

 一方の春樹の方も、保育士としての第一歩を踏むこととなった。赴任先の保育園の方に、春樹があいさつのため、初めて訪問した時のことだった。

「オイ、そこの高校生。お前の来る場所じゃないぞ。」

と先輩の男性保育士が言うと、

「オレ、この春から、そこに赴任する新人保育士です。」

と春樹は答えた。

「うそだろーっ!」

と先輩保育士が言うと、

「本当だって。園長先生に聞いてみたらいいよ。」

と春樹は返答した。しばらくたって、園長先生がやって来て、

「あら!!この方、久本春樹先生といって、この春から保育士として来てもらうことになっているのよ。久本先生、若く見えるから、伊本先生、高校生と間違えたみたい。すいませんね。」

と説明すると、

「いえいえ。高校卒業してからは、本当に若く見られるもので。」

と春樹は答えた。

「すまなかったな。お前が久本なのか。オレ、伊本薫。子供からは、かおる先生と呼ばれている。よろしくな。」

2人は、お互いに仲間同士としての握手を交わした。春樹は、この年、先輩女性保育士の忍と共に5歳児のクラスとら組の担任として、子供たちの世話をすることとなった。子供たちに、あいさつをする前に、職員室で、

「北川忍です。今年1年間よろしくお願いします。」

「久本春樹です。1年間よろしくお願いします。」

と、お互いにあいさつを交わした。

 貴子は、専門学校での新たな生活に次第に慣れてきて、2人の新しい友達と出会うこととなった。1人は石川孝太という男性で、彼の叔父は石川ヒロヤというカリスマ美容師だ。大手美容院チェーンを経営し、弟子も抱えていた。もう1人は、仙台から上京した三沢綾香だった。上京してからは、休日になるとパチンコやパチスロを楽しんでいた。ちなみに、綾香の趣味でもあるのだ。実は、彼女。仙台市内のパチンコ屋の娘なのだ。卒業後は、芸能界関係のヘアーデザイナーになることを夢見ているのだ。それから1カ月後、5月の連休明けに、貴子はジムで次の試合が6月末に東京・後楽園ホールで行われることが正式に決まった。対戦相手は、デビューしてから6戦戦って5勝(3KO)1分の宮田飛鳥と決まった。ちなみに、今回の対戦相手は、アマチュア時代、世界選手権のフライ級の日本代表選手だった強敵だったのだ。油断すると、1ラウンドでマットに沈めるくらいのパンチ力を持った選手なのだ。試合は、6ラウンド制で行われるとのことで、前日の計量に一発でパスした貴子は、不安を抱えながら、試合当日の朝を迎えた。試合が行われる1週間前に、貴子の高校時代の同級生の友達が1つ年上の先輩と婚約し、10月に結婚式が行われる予定ということから、1通の招待状が届いていた。勝って、友達の婚約に花を添えたい。そんな想いで会場に向かった。この日は日曜日だったので、保育園が休みということから、春樹も貴子の試合を楽しみにしていた。観客席で、春樹が見守る中、貴子はリングに向かった。試合は、序盤から激しい打ち合いになった。しかし、第1ラウンド終了間際、思わず貴子は偶然のバッティング(頭突き)による反則をしてしまい、飛鳥の左眉の上をカット、出血してしまった。次の第2ラウンドも接近戦の試合になり、また、貴子は偶然のバッティングをしてしまった。飛鳥の右のひたいの部分からも出血した。このラウンドでは、二度試合が中断した。第3ラウンドが始まって1分近くが経とうとした頃だった。飛鳥の出血がひどくなり、試合が中断した。飛鳥のケガで、試合続行不能となり、レフェリーが試合を止めた。結果は、試合の規定のラウンドの前半で、偶然のバッティングによる試合続行不能により、引き分けという結果となった。試合終了後、お客さんに向かって、

「いい試合ができなくて、すいませんでした。」

と謝るシーンがあった。貴子も、相手のバッティングで左の眉の部分を一か所切ってしまった。控室に戻る途中で、ロビーで春樹に出くわした。

「ケガの方、大丈夫か。」

「まあ、これくらいのけが。」

との話のやりとりがあった。

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