第19話

その日に行われたイベントはすべて終わり、いよいよ豊橋城東学園高校サッカー部のイレブンたちの国立競技場へ向けての戦いが近づいてきた。大晦日に横浜のニッパツ三ツ沢球技場で行われた高校サッカー全国大会の豊橋城東学園の対戦相手は沖縄県の興城学院との対戦となった。前後半40分ハーフで行われる、この大会。〈ただし、全国大会のベスト4と決勝戦は前後半45分ハーフでの開催。〉豊橋城東学園は、ミッドフィールダーに入っている1年生の西島歩夢のゲームメイキングで終始チャンスを演出したが、ボクサー並みの動体視力と反射神経をセールスポイントの相手ゴールキーパーの島袋優輔に度々シュートを阻まれた。0-0で前半を折り返すこととなった試合の流れが変わったのは後半28分だった。味方のコーナーキックを相手ディフェンダーがヘッドでクリアされ、中盤から一気に攻め上がり、ラストパスをもらった相手フォワードの金城瑞紀にボールが渡り、味方ゴールキーパーの桜井亘と1対1となり、キーパーを抜いてそのままボールはゴールへと吸い込まれた。この得点が決勝点となり、麗香の母校は0-1で初戦敗退に終わってしまった。試合終了後、スタンドで観戦していた麗香や応援に駆けつけた豊橋城東学園の生徒・教職員ならびにサッカー部員の保護者達の前にイレブンたちが一礼した。

「お前たち、よくがんばったよ。」

と麗香がイレブンたちに最後のエールを送った。

 年が明けて、次の試合に向けて、貴子、麗香、真理奈たちのジムでの練習が始まった。一方、忍としおりは、ランキング入りしたしおりに、もっと強い相手と試合をさせるため、正月明け頃からアメリカのラスベガスへ武者修行に出かけることとなった。貴子たちは日本で、他の選手やトレーナーたちと共に、ジムでの練習を積んでいた。卒業試験も終わり、卒業式まではボクシングだけに専念できるようになった貴子は、1か月間の限定で真理奈が働くスーパーで昼間は加工食品の店出しのアルバイトをすることとなった。夜は、真理奈と2人でジムに顔を出す日々が続いた。貴子の卒業式が近づいたある日のこと、アメリカ・ラスベガスのカジノで、しおりはサマンサ・ゴンザレスというメキシコ人の選手と6回戦を戦い、5ラウンド1分22秒KOで、しおりが勝利した。しかし、試合終了後、サマンサは意識を失い、救急車で病院へと運ばれた。その知らせは、ジムの方にも入ってきた。貴子の卒業式が終わってから1週間後、しおりたちが帰国した。しおりも、ジムでの練習が始まったが、それから10日後のことだった。ジムの方に1本の国際電話が入ってきた。サマンサが亡くなったとの知らせだった。しおりは悲しみのあまり泣き出した。

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