第18話

リング上には、既に貴子が入場。対戦相手も入場し、いよいよ試合開始のゴングが近づいていた。春樹は客席から携帯電話のカメラを使ってリングサイドの貴子を撮っていた。試合開始のゴングが鳴った。いきなり、打ち合いとなった。一方、観客席の方では、春樹が携帯電話で試し撮りした写真がきれいに写っていたことを確認すると、リングサイドに向かって次々と写真を撮り始めた。フラッシュを使って撮影してはいけないというルールだったから、フラッシュの機能をオフにしての使用となった。試合の方は、1ラウンド目の後半に相手選手から貴子はダウンを奪った。

「動画機能があったら、一部始終全部撮っていたけどね。」

と、なんてつぶやいていたのは春樹だった。

「ワタシの使えよ。そっちは動画機能があるよ。」

と、春菜は春樹に自分のケイタイを貸した。

「後半の3試合、全部撮ってDVDに収録しようか。」

「オマエ、結構好きなんだよな。」

春樹が言ったことを、後ろで聞いていた恵美から、こんなことを言われてしまった。

「あらっ!!後ろにいるのは恵美ちゃん。」

後ろを振り向いて春樹は驚いた。春樹の後ろの席には、春樹の中学校時代の同級生で現在は大学の医学部に進学した医者の卵の坂上恵美であった。

「どうせ、女の子の胸でも見たいんだろ。ビジュアル系になると特にそうだろ。図星違うのか。」

と恵美は春樹に言った。言われてしまった春樹は図星であった。

「次の石川あずさの方がいいと思うから。撮ってみたら。」

なんて、恵美が言っていた。恵美と春樹が、こんな話をしていたうちに、試合は一気に終盤に向かった。第3ラウンド開始から55秒。貴子はKO勝ちを決めた。貴子のランキング入りは、ほぼ決定的となった。試合終了後の勝利選手インタビューで、貴子はこう言っていた。

「今夜は、私にとって高校生活最後の試合だったので、勝利で飾れて本当にうれしかったです。高校卒業してからも、選手は続けていきます。応援の方、よろしくお願いします。」

とファンにエールを送った。次のセミファイナルの試合では、千晴の同僚のあずさが登場。相手は、高校を卒業したばかりで、今回がデビュー2戦目の実力者の橋本遥だった。橋本遥は、前回の試合がKO勝ちだったので、前半の1ラウンド目に、いきなりダウンを奪われ、一度はあずさの同僚の千晴は心配した。しかし、規定の6ラウンドを戦い抜き、ポイント1-0の橋本遥の優勢での引き分けに持ちこんだ。いよいよ、メインイベント。今夜のイベントの主役の麗香の登場が近づいてきた。麗香の母校のサッカー部の応援のボルテージが、試合が近づくにつれて高まってきた。対戦相手は、貴子が以前対戦して苦しみながらも貴子が勝った相手の佐藤マナミだったのだ。試合をする両者がリングに入場した。リングアナウンサーから両選手の名前が、それぞれコールされた。第1ラウンド開始早々、激しい打撃戦となった。相手のマナミも、すかさず応戦した。第3ラウンドまでは、同じような試合展開が続いた。第4ラウンド、一気に麗香が攻勢をかけてきた。麗香の左フックがマナミの顔面に直撃した。マナミは少しふらついた。第4ラウンド終了後のインターバルで、

「このままの展開では、やられるぞ!!右を狙え!!」

とのアドバイスをマナミは受けた。第5ラウンドは、麗香の左フックや左ストレートを右でかわしながら、次の第6ラウンド以降も、この戦法でマナミはしのいだ。いよいよ、最終第8ラウンド。一気に麗香の右を狙って、終盤の最後の2ラウンドは、マナミが麗香をロープに追い詰める場面も見せた。そして、試合終了のゴングが鳴った。両者共に試合の健闘をたたえ合った。判定の結果の末、麗香がタイトル防衛に成功した。敗れたマナミは、プロで2度目の敗戦を喫し、目に涙を浮かべていた。勝利選手インタビューで、麗香は、

「母校のサッカー部のイレブンたちが応援に駆けつけてくれたので、チャンピオンらしい試合をしたかった。約束通りタイトル防衛できました。大晦日は、母校の豊橋城東学園が三ツ沢で全国高校サッカー選手権の全国大会の初戦を戦います。私も応援に行きます。そして、会場に来られた皆さんも三ツ沢に足を運んで下さい。豊橋城東学園高校サッカー部、三浦麗香ともども応援の方よろしくお願いします。今夜は、応援して下さってありがとうございました。」

とのコメントをした。

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