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第10話


 年も明けて、冬休みも終わり3学期を迎えた。貴子たちの間でウワサになっていたのが、真理奈のデビュー戦のことだった。

「はるくん。どうも、真理奈のこと好きらしいよ。定期入れに真理奈の写真忍ばせていたみたいよ。」

「そういえば、アイツ。次の試合も観に行きたい。と言っていたけど、学校休みにならないと行けないよな。今、オレ、大阪なんだよな。できれば、大阪でしてほしい。と言っていたよ。」

との話が学校の中で行われていた。

 一方、ジムの方では、麗香のタイトルマッチの前哨戦と真理奈のデビュー2戦目に向けて、この2人が練習に励んでいた。ちなみに、貴子の所属する原島ジムの選手の出場は4人。麗香と真理奈の他に、石井恒太と宮沢直紀という2人の男子選手も出場の予定になっていた。宮沢は春樹の高校の1年先輩で、結構なイケメンだ。高校時代は陸上部だった。実は、この日が彼のデビュー戦。ウエルター級4回戦に出場することとなっている。憧れは当然、オスカー・デラ・ホーヤだ。試合は1月末に東京・後楽園ホールで行われた。なんと、この試合はCS放送でテレビ放映された試合で、麗香は前哨戦となった試合を2ラウンドTKOで勝利。真理奈も判定でデビュー初勝利を手にした。宮沢と石井の2人の男子プロボクサーも判定で勝ち、4人とも当日の試合は白星という形で無事に終わった。

 ある日のこと、真理奈をいじめていた中学校時代の友達と、たまたま街中で再会することとなり、

「真理奈。すごいじゃない。」

と言われるエピソードがあった。それから、貴子のジムの方には、こんな知らせがあった。6月に麗香が石田理恵子との日本タイトルマッチを戦うことが決定した。一方、麗香の行った高校のサッカー部も3年生が抜けた新チームでの新人戦で準優勝した。麗香にとっても大きなエールとなった。石原先生との電話のやり取りで、麗香が、

「6月に日本タイトルマッチをすることが決まった。」

「うちの高校のサッカー部も4月からインターハイの予選が始まる。4月から5月にかけて行われるグループリーグ予選に上位2位以内に入れば、5月末から決勝トーナメント。お互いにがんばろうね。」

という会話が交わされていた。

 貴子の方も、いよいよ高校卒業後の進路を考える時期が来ていた。貴子は美容師の専門学校への進学を希望。試験へ向けての勉強もしなければいけない時期となっていた。貴子は対戦相手の選定や進路の問題で、ここ最近は試合に出場していなかった。2月に行われた、しおりの出場した試合が行われたイベントでは、貴子は対戦が組まれず、しおりのセコンドに入ることとなり、当日の試合では、しおりはプロデビュー以来初のKO勝利を決めた。この対戦の試合が終わった翌日に、貴子はジムでの練習に出向くと同時に会長に呼ばれて、プロ4戦目となる試合が3月の春休み中に行われることが知らされた。今度の試合は、貴子にとっては、今まで戦ったフライ級のウエイトより1つ軽いクラスのライトフライ級(48.9kg以下)の契約での試合となりプロデビュー以来初の減量も経験することとなった。プロ4戦目の知らせを受けてから1カ月が経ち、試合前日の計量でも貴子はライトフライ級の規定の体重にまで落として計量に合格。その翌日に東京・後楽園ホールで福浦アカリとの女子高生対決となった試合に挑んだ。試合は第1ラウンドから激しい攻防戦となり、第3ラウンドには貴子はアカリの左フックをもらって鼻血を出すハプニングもありながらも、無事に規定の4ラウンドを終了。勝負の行方は判定となり3人のジャッジの採点は1人のジャッジが38-38で同点の採点となったが、残りの2人のジャッジは共に貴子を支持となりポイント2-0のマジョリティディシジョンでの勝利でプロデビューから4連勝としてB級ライセンスへの昇格を苦しみながらも見事に果たした。この日、試合に出場した真理奈は尾崎美咲にまさかの1ラウンドKO負けを喫してしまった。試合終了後、無事に立ち上がり、主催者の方に向かって礼をしていた。実は、翌日、春樹から匿名で、デビュー戦で真理奈のセコンドをつとめた元プロボクサーの女性のホームページの掲示板に、

”真理奈のことが好き!!”

なんて書き込みがあった。真理奈は、

「えーっ。そこまで心配してくれていたの。」

なんて言っていた。

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