第6話

学校の文化祭も終わり、街中はクリスマスムードに変わった。ショウウィンドウにはクリスマスの飾りが並ぶようになった。その年の最後のボクシングのイベントが12月半ばに行われることが決まり、貴子はプロデビュー3連勝をかけて、そして、真理奈はデビュー戦となる試合に出場することが正式に決まった。この2人。いずれも対戦相手はランカー予備軍と言われる強豪選手との対戦となった。その日に行われるイベントの6試合の中で、貴子の試合が4試合目に、なんと、真理奈はデビュー戦でありながら、この日の5試合目にあたるセミファイナルに抜擢された。ちなみに、この日に行われるメインイベントには、しおりや真理奈が目標としている日本女子ミニフライ級チャンピオンの西山梨香の初防衛戦だった。彼女はミニフライ級の日本タイトルを、この春に獲得した。目標は世界チャンピオンだ。真理奈と対戦することが決まった野上玲奈は、6試合戦って5勝(4KO)1分の強打者。

「なんで、私がこんなデビュー戦のボクシングを始めて1年も経たないヤツと試合をしなければいけないの?」

玲奈は、このマッチメイキングに不満だった。

「コイツ、プロテストで1ラウンドでKOして話題になったヤツだぞ。なめてかかったら、お前が倒されるぞ!!」

と玲奈はトレーナーから忠告を受けた。

 一方、貴子の対戦相手に決まったのは、北海道を拠点にしているボクシング一家の次女の江藤マナミ〈本名は江藤愛美〉となった。ただ、彼女をあなどってはいけない。高校1年生でアマチュアの大会で優勝した経験を生かして、昨年の夏に鳴り物入りでプロデビューした女だ。姉の美奈子は、中学時代はバレー部のキャプテンで北海道選抜にも選ばれた。将来はV・プレミアリーグで活躍するのではないのかと期待されながら、仙台にあるバレーボールの強豪校に進学したが2年で中退した。ボクシングに転向したもののウエイトの問題から、現在は米国のリングでプロとして活躍することとなった。ちなみに、美奈子の戦っているクラスはライト級〈61.2kg以下〉である。試合の日が近づいてきて、札幌の街も雪化粧して、大通公園も一面の銀世界になり始めた頃、マナミとマナミの父親の孔次、そして孔次が経営する札幌エトウボクシングジムの門下生で、この日の最初の試合に出場する福浦アカリの3人とで直前のトレーニングがジムの中で行われた。後になってマナミのセコンド役を務める兄の孔一もジムにやって来て、最後の追い込みとなった。マナミは勝てばランキング入りだ。一路、札幌から試合が行われる東京へと4人は向かった。マナミの父親が経営する札幌エトウボクシングジムにとっては、2人の男子プロボクサーのランカーがいるが、そのうちの1人の高木恭輔が一度はタイトルマッチにも挑戦したが、スーパーフェザー級〈58.9kg以下〉は選手層が厚く、最近再びランキング外に追いやられて、会長の孔次にとっては、高木に引退を取り下げるように説得にあたっていた。ここ最近2カ月ほど高木はジムに顔を出していない。だから、娘のマナミのランキング入りは、ジムにとっても大きな宣伝になると思うし、そこのジムの看板娘としての存在感も示せるのではないのかという期待をしながら試合が行われる後楽園ホールへと向かった。一方の真理奈や貴子もファンに最高のクリスマスプレゼントを贈るためにも勝つことを考えて会場に向かっていた。

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