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第2話


 貴子のジム入門から間もなく1年の歳月が近づこうとしていた。学校帰りに、貴子が下車する駅で入れ替わりに電車に乗り込む春樹と出くわすことが多くなった。まだまだ春遠い2月の夜の出来事だった。3月になれば卒業の季節。3年生は学校を卒業し新たな人生への第一歩を踏み出すこととなる。なぜ、この2人が度々駅で出くわすことに・・・。というのも、春樹の行っていた高校では芸術のカリキュラムが組まれていて、美術・書道・音楽の3科目から1科目を選択することとなっていた。ちなみに、春樹は音楽を選択、教科担当の先生は作詞・作曲が終わるまで単位をあげない方針で、大学進学組でも、単位が取れずに卒業延期ということもあるウワサの先生だった。このウワサは、貴子の通う高校にまで知れ渡っていた名物先生で、貴子より1歳年上で春樹と同じ高校に通ういとこのちえみからも、このウワサを聞かされていた。春樹は、この単位を取らなければ卒業できないこともあって、ほとんど毎日のように音楽の補習に出て、卒業式に他の同級生の仲間と一緒に卒業しようと必死になっていた。ある日のこと、貴子は、春樹に対して想いを告白した。しかし、春樹には好きな女の子がいたことから、貴子はフられてしまった。春樹は、その後、卒業延期になることなく無事に高校を卒業した。

 春がやって来て、卒業・新入学の季節となった。4月になり新学年・新学期が始まった。貴子は高校2年生になった。そして、同じ月に17歳の誕生日も迎え、いよいよプロライセンス取得へ向けての本当の戦いが始まろうとしていた。原島ジムに入門して1年。ジムの中で、貴子は2人の先輩女子プロボクサーと仲良くなっていた。少女時代はいじめられっ子で、中学時代、先輩ヤンキーの女子高生グループに1人で喧嘩して勝った経験のある元ヤンキーの三浦麗香。もう1人は、付き合っていた彼氏が果たせなかったチャンピオンを目指す一途な美少女・西村しおりとの出会いだった。時には、貴子のスパーリングパートナーにもなってもらい、そして、プライベートでは、遊園地に遊びに行ったり、時には、ジムの近くの喫茶店で食事をしながら話をしたりする仲良し3人娘になっていた。

 麗香がボクサーになるきっかけとなったのは、高校時代、クラス担任としてお世話になった先生の石原雅仁との出会いだった。中学時代に麗香のクラス担任だった先生の藤沢康介は、麗香の家へ家庭訪問に行った時、家の中で麗香を含めて両親と一家3人で、片膝をついてタバコを吸っていた不良一家だったことで、本当に困り果てていた。しかし、高校に入った麗香は、麗香のクラス担任になった石原先生になつき、学校でも石原先生が担当する社会の授業には真面目に聞き入っていた。麗香は、石原先生が部活の顧問を担当している豊橋城東学園高校サッカー部のマネージャーとして入部し、他の部員達の身のまわりの世話もやっていた。しかし、家庭訪問で、石原先生も同じ光景を目にすることとなった。麗香の父親から酒を勧められた時、

「私、他にも仕事がありますので飲めません。」

と答えると、

「オレの酒が飲めねぇのか!!」

と逆ギレする始末だった。その後、あまりにもそのことが恥ずかしかったのか、「学校をやめたい。」という麗香の相談に対して、

「三浦は親元から離れた方がいいと思うが、できれば高校の方は卒業してほしいけど・・・。私の知り合いに元ボクサーがいるけど、彼の経営するジムに入門してはみないか。」

と勧められて、4年前にジムに入門する道を選び、自らの意思で高校を中退した。

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