モーニングコーヒー
ゆったり虚無
朝から香るもの
朝だ。
枕もとの携帯が朝の五時を僕に知らせている。
季節は少し寒くなってきた秋の中旬。
窓から差し込む陽光を顔に注がれ僕は目を覚ます。
今日は休みだ。
特に何もすることがないが、アラームをつけっぱなしにしていたようでいつもの時間に目を覚ますことになった。
もう一度寝ようと思い目を閉じるが眠れない。
カーテンが全開だからだ。
あれを閉めるには起き上がる必要がある。
僕は観念して布団から出て、顔を洗いに行く。
朝のルーティンなど何も持たない僕だが、コーヒーだけは毎朝飲んでいる。
平日はあまり時間をかけないためにインスタントで飲むのだが、時間のある休日は豆から挽くことにしている。
一年前の初ボーナスで買ったコーヒーミルと、ネットで購入したコーヒー豆を用意する。
特に豆の種類にこだわりはないのでその店のブレンドコーヒーの中煎りを注文していたのだ。
コーヒーを密封していた袋を開けるとあのコーヒー独特の香りが朝を彩った。
少し焦げたような、それでいて頭が冴えるような気品のある香りだ。
それが過ぎると少し甘い香りが鼻に残る。
この香りを楽しむためにコーヒー豆を買ったと言っても過言ではない。
それほど僕はこの香りに魅了されていた。
計量計を用意する。
コーヒー豆20gを量り、コーヒーミルに入れる。
そしてポットに240mlの水を入れ沸騰させる。
その熱湯をカップに入れておく。
これはコーヒーが冷めるのを遅らせるために先にカップを温めておくのだそうだ。
最初に考えた人は配慮の天才だ。
見習いたい。
更に追加でポットに水を240ml入れ火にかける。
お湯が沸く間にドリッパーとペーパーを用意し、コーヒーをミルで挽いておく。
この作業が好きなのだが、途中から腕が痛くなるのだ。
もう少し奮発して良いミルを買うべきだったのかもしれない。
僕は苦笑しながら、熱が発生しないようゆっくり均一にコーヒーを挽いていく。
挽き終わると同時にポットから息が吹くのを感じ取り火を止めた。
カップに入れておいたお湯を捨て、ドリッパーとペーパーをカップに設置する。
準備は整った。
ミルからペーパーの上にコーヒー豆を移動する。
この時に香る微かな香りも好きだ。
豆がペーパーの上で均一になるようにスプーンで均していく。
その上から円を描くように、お湯を落としていく。
コーヒー豆から泡が盛り上がる。
この光景はインスタントでは見られないな。
そう思いながらお湯を落とすのを止めた。
しばし待つ。
この待っている間に今日の予定を立てる。
何もせずに家でゴロゴロするのも捨てがたいが、たまには外に行くにもいいかもしれない。
僕はスマホを取り出し、上映中の映画の情報を検索する。
「これにするか。」
独り言が口から漏れ出る。
一人暮らしをしているとよくあることだ。
もう一度、お湯を落としていく。
今度はペーパーの上あたりにお湯が来るまで円を描くように落とし続ける。
そしてまた待つ。
まるで砂時計のようだ。
落ちきるのを待ちながら僕はその砂時計をボーっと眺める。
もう少しでお湯がペーパーからなくなる。
僕は継ぎ足すようにお湯を落とした。
落とし続ける。
お湯の一滴も残さずに。
ポットからお湯の重みがなくなるころ、部屋いっぱいにコーヒーの匂いが満ちる。
せっかくだから、何か食べるものも欲しいな。
僕は昨日買ったクッキーをお皿に盛り付けテーブルに置いた。
洗う手間は増えるけど、こういうのは雰囲気が大事だ。
カップにできた黒い水面を僕は満足げに眺めた。
「これで良し。」
さっそく僕はカップをテーブルへと運ぶのだった。
モーニングコーヒー ゆったり虚無 @KYOMU299
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