第31話 人生最大の危機?
俺は今、人生最大の危機?に直面していた。
「了君、日焼け止め塗って」
俺達のシートの隣、夏月たちのシートと反対側に張ったシートにうつ伏せになりながら、梨沙姉が日焼け止めクリームを差し出してくる。
……え、と、日焼け止めを塗る? 梨沙姉の身体に?
ええええええええええっ! 無理! 無理! 無理!
目の前に横たわる、大きく露出された背中を見ながら硬直する。
「ねえ、早く塗って」
「い、いや、そんなことしたら、ほら、みんなから誤解されちゃうし……」
「大丈夫だよ、日焼け止め塗るくらい。従姉弟同志で日焼け止め塗るなんて別におかしく無いし」
いやいやいや、それは「普通」の従姉弟同志の場合だよね。
梨沙姉みたいな超絶美少女だとそうはならないんだよ。
だって、ほら──
「高科、お前だけいい思いしやがって!」
「うおおおっ、憎しみで人が殺せたら!」
「リア充爆発しろ!」
ううう、みんなの視線が怖い。何と言っても──
「「「彩名さん、ステイ!!」」」
「フーッ! フーッ!」
夏月が怖い……。
「ねえ、早く」
梨沙姉、そのセリフ、勘違いされそうだから止めて。
クッ、ここは腹を括るしか無いか。男には負けるとわかっていても戦わねばならぬときがある。
掌に日焼け止めクリームを出して広げると、梨沙姉の背中にそっと触れる。
「ん!」
「ご、ごめん、くすぐったかった?」
「ううん、大丈夫。もっとお願い」
くぐもった声が出て、くすぐったかったかと咄嗟に謝ったが、大丈夫だったらしい。
無心になって塗り進める。
「ん、了君、気持ちいい。もっと」
……無心、無心。
「ふう、終わったよ」
背中に塗り終わり、ホッとして梨沙姉に告げる。
「まだ。足の方も塗って」
「えぇ……」
足なら自分でも塗れるだろと思いながらも仕方ない、と塗ろうとして身体が止まる。
足ってことは、足の付け根も?
そちらに視線を向ける。
(お尻が……)
いや、それだけじゃ無い。足の付け根ってことは、もっとまずいところに近いとこにも触れるってこと?
「無理! 自分でやって!」
「えぇー!」
何と言われようと譲ることは出来ない。
「無理なものは無理!」
「むううう、仕方ないなあ」
梨沙姉が立ち上がり、自分で足の周りに日焼け止めを塗っていく。
それを見てホッとしたのも束の間──
「じゃあ、次は了君の番。横になって」
「え?」
「え?じゃ無いよ。男の子だからって日焼けを甘く見ちゃダメだよ。火傷みたいになっちゃうからね」
いや、それはわかるけど……
「じ、自分で塗れるから」
「背中は塗れないでしょ。遠慮しないで」
……いや、遠慮じゃ無いです。
「りっちゃん、高科君に変なことしないで!」
押し問答していたら、堪忍袋の緒が切れたのか、夏月が乱入して来た。
「え、変なことじゃ無いよ。日焼け止め塗ろうとしただけで」
「高科君、嫌がってるでしょ」
えぇ……何で二人が喧嘩になってるの?
「ちょっと、二人とも……」
「「了君(高科君)は黙ってて!」」
「はい」
いったいどうしたらいいんだろう。途方に暮れて片瀬先輩を見たらクスクス笑ってた。
「片瀬先輩、笑ってないで助けて下さいよ」
「そうだね。じゃあ、間を取って私が了君に日焼け止めを塗るってのは?」
「「ダメ!」」
いったい本当にどうしたら?
そうして、俺の意思とは関係なく、背中の右半分を梨沙姉が、左半分を夏月が塗ることになったのだった。
紫外線よりも何よりも、周りからの視線が痛い。
その後、梨沙姉や片瀬先輩も加えたみんなでひとしきり遊んで、今は海の家で休憩しているところ。
それにしても酷かった。
海に入ったら、周り中から思い切り水を掛けられた。
海水浴場での水の掛け合いって、「えい♡」、「やったな♡」って、キャッキャウフフしながら掛け合うもんだろ。何が悲しうて男たちから一斉に大量の水掛けられなくちゃならんのだ。
まあ、びしょ濡れになった髪も身体も、真夏の日差しに晒されて今は乾いている。
気を取り直して目の前のかき氷に集中しよう。
俺の前にはイチゴのかき氷。
かき氷と言えばイチゴだろう。
ちなみに隣に座る梨沙姉はメロン味。対面の夏月は抹茶練乳あずき。斜め向かいの片瀬先輩はブルーハワイだ。
4人席に座ったら自然とこの並びになった。周りの席に座っている男子たちから何とも言えない視線が飛んでいるが、無視だ、無視。
シャクシャクとかき氷を食べていたら、梨沙姉が話しかけてきた。
「ねえ、了君、知ってる? かき氷のシロップって全部同じ味なんだって。 イチゴ味もメロン味も味は同じなんだよ」
「そうなの?」
「うん、ちょっと試してみて」
差し出されたスプーンに盛られた、メロンシロップのたっぷり掛かったかき氷を口に含む。本当にメロン味なのにイチゴ味と同じなのだろうか。
「どう?」
「うーん、どうだろう? 同じ味とは思えないけど」
「そう? 私にもイチゴ味頂戴」
「あ、うん」
言われるままに、自分のかき氷をすくって、口を開けている梨沙姉に食べさせようとして──
(おい、これ、間接キスじゃね⁉)
ハッとして周りを見渡す。周囲の男たちから刺すような視線。
「おのれ、高科!」
「俺たちの春日先輩と間接キス……」
「リア充爆発しろ!」
いや、梨沙姉はお前らのもんじゃないからな──そんな軽口は、だが、言えなかった。だって、だって、夏月が怖い。
「高科君、私のも試してみる?」
スプーンを向けてくる彼女に戦慄する。おおい、笑みを浮かべてるけど、目が笑って無いよ。
「い、いや、そりゃちょっとまずいだろ」
「へえ、私のは食べられないんだ?」
「だって、夏月のはそもそも練乳に小豆も入ってるだろ。同じじゃないから」
「へえ」
うおおお、怖いよ。そう、思っていたら、梨沙姉にくいくいとラッシュガードの袖を引っ張られた。
「何してるの、了君、早く。あーん」
梨沙姉、頼むから空気読んでくれ! そんな雛鳥みたいに口開けてないで!
困って片瀬先輩の方を見たら、下を向いて肩を震わせている。
「片瀬先輩、笑ってないで助けてくださいよ」
「そうだね。じゃあ、私のブルーハワイも試してみる? はい、あーん」
「「ダメっ!!」」
今度こそ、片瀬先輩は爆笑してしまった。身を折って、腹を抱えて苦しそうにしている。
「いやあ、梨沙っちもなっちゃんも初々しくて可愛いなあ!」
「初々しいって、いくら先輩だからって上から過ぎません? じゃあ片瀬先輩はどうなんですか?」
片瀬先輩の言にちょっとカチンと来たのだろう。夏月が嚙みついた。
でも、片瀬先輩は笑みを絶やさない。
「だって、私、彼氏いるもん」
「「「「ええっ!!」」」」
大声を上げたのは、周りで聞き耳を立てていた男子たち。
頭を抱えている奴もいる。
いや、俺も知らなかったけど、年上で美人の先輩に彼氏がいても驚くようなことじゃ無いと思うけどな。
梨沙姉はと言うと以前から知っているらしい。
「そうだよ。沙希には幼馴染で大学生の彼氏がいるんだよ」
片瀬先輩はちょっと呆気にとられたような夏月に向かってニヤリと笑った。
「そいつが、優柔不断な奴でさ。なかなか告白してこないから、いろいろやって追い込んだんだよね」
そう言うと夏月の耳元に口を寄せて何やらごにょごにょ。
聞いていた夏月の顔は見る見るうちに赤くなっていく。
「と言うことで、この辺りの手練手管教えてあげてもいいけど、どう?」
「け、結構です!」
うーん、何を言われたのか気になるが、夏月の反応を見るに、どうせろくでも無いことなのだろう。
夏月が悪の道に引きずり込まれなかったようで良かった。
こうして臨海学校の最終日、グダグダの一日が終わったのだった。
========
<後書き>
次回は夏月の誕生日。
1月31日(金)20:00頃更新。
第32話「マジですか」。お楽しみに
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