第22話 俺に任せろ!

「宣誓! 私たち生徒一同は、フェアプレー精神の下、『全員が主人公』というスローガンに恥じないよう、全員が全力を尽くし、正々堂々、戦うことをここに誓います!」


 体育祭委員会の委員長である3年生生徒の選手宣誓。

 いよいよ体育祭が始まった。


 グラウンドの半分を取り囲むように赤、白、青、緑と反時計回りに配置されたチームのテント。向かって一番右側にあるテントに走る。


 座席が決まっているわけでは無いから、みんな思い思いの席に座って応援。俺は例によって夏月、拓海、神崎さんと固まった。


 周りを見回すと、他のみんなもだいたい仲の良いグループで固まっている。赤組には1年から3年までの1組と2組のメンバーが集まっているが、クラスの違い、ましてや学年の違いを越えての仲間はそうそういない。


 運動部に所属していると先輩後輩の関係が厳しそうだが、2年以上は1組、2組は特進コース。赤組の上級生に運動部所属の人はあまりいないからな。


 それでは、と隣のテントに目を移すと、梨沙姉と目が合った。梨沙姉は2年3組。今度の体育祭では敵同士である。でも、「了君が出てるときは自分のチームより了君を応援するね」と言っていた。周りの士気を下げること甚だしいからやめて欲しいんだが。


 その梨沙姉は小さく手を振って来る。目立たないように本当に小さく。

 だけど、それでも目ざとい人たちはいるもので……


「おい、春日さんが手を振ってくれてるぞ!」

「俺にだな」

「何を言う、俺に決まってるだろ」

「いやいや、俺だ、俺」


 いや、姦しい。

 しかも話は終わらない。


「そう言や、春日さんが付き合ってる男がいるって話……」


「いやいや、あれはガセネタだったって話だろ。確か従姉弟同士だとか」


「でも従姉弟同士って結婚できるんだぞ」


「マジか!」


 ……当人の聞いてる横でそう言う話は止めていただけませんかね。


 梨沙姉には小さく手を挙げて挨拶を返すと、横のくだらない会話を意識から切り離そうとグラウンドに視線を移した。





 プログラムは順調に進行している。

 1年生の100メートル走では男子は拓海が、女子は神崎さんが圧倒的な差をつけて1位になっていた。ちなみに400メートル走に出た俺は2位。同じ組の走者に陸上部がいたんだもん。仕方ないよね、グスン。


 そんなこんなで、午前中の俺の最後の出番、男女混合800メートルリレーである。


 各クラスから男女2名ずつ計4名。二クラスで一チームだからチーム全体では計8名。それぞれがグラウンド半周、100メートルずつ走って合計800メートルを走る。


 配点も大きいから優勝のためには取りこぼせない花形競技の一つ。


 さて、リレーとなるとオーダーも大事になって来る。神崎さんは序盤に拓海を投入して先行逃げ切りを主張したが、話し合いの結果、拓海はアンカーになった。


 スタートが夏月で、その後、1組の男女が続き、俺、神崎さん、拓海の順番である。


 男女それぞれのスタート地点に分かれ、開始の合図を待つ──と、ピストルの音が鳴り響いた。


 スタートラインから第一走者の女子が一斉に飛び出す。


 スタート直後の一瞬の団子状態。そこから、白組の女子が飛び出した。一瞬遅れて夏月も。


 二人はほぼ横一線で第二走者にバトンを繋いだ。


「お疲れ」


 近くにやって来た夏月に声をかける。


「うー、抜けなかった」


「十分速かったよ」


「でも、第一走者がリードするのが大事なのに」


「大丈夫だって。神崎さんも拓海もいるんだから」


 リレーなんだから後続を頼ればいいのに、そう思っての言葉だったが、夏月は不満のようだ。

 頬を膨らましている。


「そこは『俺が何とかしてやる』って言うところでしょ」


「はい?」


 斜め上の抗議が飛んできた。いや、俺より拓海の方が速いし、神崎さんは女子としては別次元に速い。俺より頼りになるんだが。だけど夏月は真剣な眼差しで──


「自信を持って。高科君はすごく速いよ」


 その言葉に応えたい、そう思ってしまったんだ。


「ああ、俺に任せろ!」


 必ず、このチームを優勝させる。

 ……だけど、現実は過酷で、俺の前走者の時点で白組からは引き離され、緑組にも並ばれ、3位に落ちていた。


「お願い!」

「ああ!」


 前走者からバトンを受け取り、大地を蹴る。

 そのまま加速。


 たとえ運動部に入っていなくても、昔から走るのは得意だった。

 この3か月、毎日、梨沙姉と走っていた。

 今ではスプリントやダッシュも取り入れて。

 体力測定の時より遥かに走力は上がっている。


 その全てを今、叩きつける。


 横並びだった緑組はスタートダッシュで振り払った。前を行く白組との差はおおよそ20メートル。


 僅か20メートル。だが、100メートル走る間に、いや、相手が80メートルを走る間に、20メートルを詰めなければならない。


 無謀とも言える差。だが、考えるな。ただただ、足を動かせ。大地に力を叩きつけろ!


 周り中に轟く歓声が、どこか遠くに聞こえる。

 雑音なんか聞こえない。見えるのはただ前を走る白組の選手。


 ただ、そんな中でもクリアに聞こえる二つの声。


「高科君、頑張って!」

「了君、頑張れ!」


 夏月と梨沙姉、二人の声援に包まれて、ただ走る。そして──


「神崎さん、頼む!」

「任せて!」


 神崎さんにバトンを渡す。白組とは、ほぼ──横並び。

 20メートル差を詰め切ったのだ。


 バトンを受け取った神崎さんは加速。一瞬にして白組の選手を置き去りにした。そして、アンカーの拓海が独走でゴールテープを切ったのだった。



========

<後書き>

次回は明日1月2日(木)20:00頃更新。

第23話「悪の女幹部登場」。お楽しみに

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