濡髪

第65話

指を突っ込み過ぎたせいで、喉が痛い。できるだけ口をゆすぎ、いつも持ってきているタオルで顔を拭いている最中、鞄の中にあるモノが震えているのが分かった。


静かな廊下でのその振動はやけに響いて、はっとした私はタオルを顔から離し、鞄の中に手を入れる。



電話がかかってきているらしいそのスマホを見れば、画面には私の大好きな人の名前があった。私だけを見てくれると言ってくれたあとに、交換した電話番号。


⋯出るのが、嫌だと思った。


あんな事を、彼の弟にされたなんて。

しかもそれを、黙ってろなんて⋯。

バレたら、どうなる。ルイに嫌われる?



「⋯⋯もしもし」



それでも私はルイが好きだから⋯。そんな私の声は、吐きすぎたせいか少し枯れていた。



『どこにいる? 図書室じゃなかった?』



もう図書室なんか、二度と行かない。絶対に許さない⋯嫌な思い出。

私を迎えに来てくれたルイは、そんな図書室にいるらしい。



「あ、の、気分が⋯悪くて⋯」


『え? 大丈夫? どこにいるの?』



少し驚いた声を出したルイは、私の居場所を聞いてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る