あとの夢

丹羽之Es河

あとの夢

夢をね、ここ数日よく夢をみるんですよ。


いや悪夢······というわけではなくて。いや、悪夢といえば悪夢なのかなあ。

すみません。要領を得なくて。


えーと、その夢についてなんですけど、初めに断っておきますと、僕という存在は夢の中にいなくて、あくまで俯瞰しているんですよね。

起きている現象をただただ俯瞰して見ている。それに干渉することは一切できない。

って夢なんて大抵そんなものですよね、すみません。いわゆる明晰夢ならアレですけど、僕は夢を見ている際は夢だと気付かずに、目を覚ましてからさっきのが夢だったと認識しているわけですから。


で、夢の内容についてですね。

これがなんとなく不思議というか気持ちの悪い感じでして、ここ数日夢を見ると先程言ったんですけど、その夢の内容がね、どうも続いているんですよ。

ええ、本来なら夢なんて見るたびに内容が変わって当然なんですけど、どうも繋がっているような······というより確信めいたものがあります。場所が同じなんです。ただ同じ夢を繰り返し見ているというわけではなく、ちゃんと内容が変化しているんですよね。変化しているというか、夢の中で時間が進んでいると言ったほうがいいかな?


あーごめんなさい。こうやってうだうだ言ってても分かりにくいですよね。

えっと、僕が夢を見始めて3日目なんで、1日目から順にこれまでの内容を軽く説明していきますね。


えーと1日目ですけど、マンションらしき場所のリビングが舞台なんです。

ただ、誰もいない。

いや、正確に言うとこの部屋には誰もいないんです。

リビングには扉があるんですけど、その向こうから大きないびきらしき音が聞こえます。

明かりは消えてるし、よく見たら窓の外も薄暗い。

どうやら今が夜だということが理解できました。まあそれが分かったとて事態が変化するわけもなく、僕はボーッと何もないリビングを俯瞰していて······で、気付いたら目覚めてました。



んで、2日目なんですけど。

場所は変わらずリビングでした。

それで、何が変化しているかっていうと外がね、暗くなってるんですよ。

昨日は窓からまだ他の家の明かりが見えていたんですけど、今日はもう真っ暗。思わずギョッとしたのをなんとなく覚えています。

え?いやあんまりに真っ暗だとなんか······おばけが出そうじゃないですか。

夢とはいえおばけなんて出てきたら僕もらしちゃいますよ(笑)

って、話が逸れちゃいましたね、すみません。

あ、あー!思い出しました。いやね、そういえばもう1つ変化ありました。

リビングにはテーブルと椅子があるんですけどね、そこにね。誰かいたんですよ。

けど部屋の明かりはついてないし外は真っ暗だしでそれが誰か分からない。

ただそこに誰かがいる。

誰かが椅子に座っているということだけ分かるんです。

誰かいるなあなんて考えてたら、いつの間にか目が覚めてました。いや寝覚めは最悪ですよほんと。



3日目······数時間前に見た夢ですね。

場所はお馴染みのリビングでした。

でね、今回は朝だったんですよ。

朝の日差しが差し込んで、爽やかな朝!って感じでした。

キッチンの方からトントントンなんて音が聞こえてたんで、恐らく朝食でも作ってるんですかね。思わずみそ汁のいい匂いが漂ってきそうな雰囲気でした。

それで······2日目に椅子に誰かが座ってるって言ったじゃないですか?

朝になって明るくなったことでそれが誰か分かったんですよ。


僕でした。

僕が座っていました。


え?って感じでしょ?自分を俯瞰して見てるんですよ。

なんだか気色悪いなあなんて思ってたら座ってる僕がこっちを見てきてね、なんか言ってるんですよ。

ただ声は聞こえなくて、口をパクパクしてるだけ。

読唇術なんて出来るわけないけど必死に何を言ってるか読み取ろうとしたんですよ。それでジーッと集中していたら、


『もう手遅れでした(笑)』


耳元で囁かれて思わず飛び起きましたよ!

「いや夢にしちゃあハッキリ聞こえすぎだろ!」

たまらず虚空に向かってツッコミをかましてしまいましたよ。ええ。



以上が僕が今日までみてきた夢の全てです。

いやまあそうなんですけどね。夢なんてのは突拍子もないのが当たり前で、たまたま連続で似たような夢を見ただけ······はいおしまい。ってなればいいんですよ。

なんかね、嫌な感じがするんですよ。

夢に自分が出てきたのもそうですし、手遅れでしたなんてセリフも不気味なんですけど、なんというか······夢そのものが僕に粘っこく纏わりついているというか。

目の前に最悪の事態が迫っているのに自分ではどうしようも出来ないような感覚というか······


ええ、ええ。そうですね。とりあえずもう一晩様子を見てみることにします。

もしまた不可解な事がありましたら、また連絡させていただきます。

はい、よろしくお願いします。それではすみませんが失礼します。



よい夢を。




7月19日

彼の不可思議な夢の話を聞き終え、私は軽く頭を悩ませた。

正直なところ、似たような夢をみることは決して珍しい事ではない。

本人の中に何かしらの潜在意識が強く存在し、それが夢という形で数日に渡り表れた。ということは大いに考えられる。

ただ、彼の場合どんな潜在意識があのような夢をみせたのか。そこに関する糸口は掴めなかった。いずれにしても、恐らく明日届くであろう彼からの連絡を待つこと以外は今のところ打つ手なし。

今日は早く休むことにしよう。

なんだか今日は酷く疲れてしまった。


7月20日

結論から述べると、本日彼からの連絡は来なかった。

この事実から考えられる結果は、彼が連日見ていた夢は3日目で打ち切られたということだろう。

結局のところ夢は所詮夢であり、偶然にも続けて似たような夢をみてしまったというだけのはなしなのだ。

これで私もムダな労力を割かずに済む。

またいつも通りの平凡な日々が続くのであった······


なんて、丸く収まるパターンが理想的ではあるが、私はもう1つのパターンを予想している。いや予想というより願望といった方が正しいかもしれない。


彼は連絡を送らなかったのではなく。

連絡を送れなかった。


すなわち何かしらのトラブルに巻きこまれ、連絡が出来ないのである。そのトラブルとは無論、夢に関することである。


······失礼。あまりの荒唐無稽さに失笑してしまった。

いくら私がホラーを嗜好するとはいえ、現実にまでこのような恐怖を求めるのはもはや病気である。


今日も早く休んでしまおう。

馬鹿な事を考える暇もないくらいにグッスリと。


7月21日

私はこうも影響を受けやすい人間だっただろうか。

彼の話を聞いてから、彼の話と同じ内容の夢を見ている。

今日で3日目。

改めて自分自身に問う。

私はこんなにも影響を受けやすい人間だったか?


彼からの連絡もこないのも些か気になる。

······彼?いや、待て。おかしいおかしい。


私は何故彼とコンタクトを取ることにしたんだ?


何故、彼の荒唐無稽な夢の話を聞くことになったんだ?


そもそも、彼は一体誰なんだ?


 月 日


もう手遅れでした(笑)












目の前には目玉焼き。

熱い熱い目玉焼き。


押し付けられる私の顔面。

目玉焼きに私の顔面。


熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い


『いただきます』


抉り取られる目玉焼き。

抉り取られた私の目玉 焼き。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


『ごちそうさまでした』

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