第38話 拒まれる者である

「一体完了…。ふー、後これと同等をもう何体か。相当辛いな。よっこいせ…」


血まみれになりつつ、天空に浮かんでいるマギリアル達に視線を寄せる。

そうしたらビックリな事、警戒されるような視線を向けられた後、煙に巻かれて逃げられた。


普段なら追いかけるとこだが、相手の強さを知っている上、ボロボロな体で追っかける理由はない。

今は生きているかもしれない人々の捜索だな。

冒険者として、見捨てれないな。これ以上死人が出る前に探し出さないとだな。


魔力探知で人の生命反応の確認。そして埋もれている建物を土属性で崩れないようにし、風属性で埋もれている場所を浮かび上がらせる。

魔力の消費しすぎで辛いが、ダニスも頑張ってくれている。俺が倒れる訳にはいかない。


「ダニス、そこいる。土属性で支えるから、力で押し上げてくれ」


「了解」


魔力が尽きそうだ。マギリアルの戦闘で結構消費しちゃったからな。限界も近い。

こういう時はマナ・ポーションを飲んで。

ぷはー!魔力が染み渡りますわ!まるで砂漠を彷徨っていた時、絶世の水を飲んだみたいだ。


ふふ、これでまだまだ頑張れる。

ノワール家の長子として、ここでダウンする訳にはいかないからな。


__うるさい、心配したような声を吐くな


__良い事をしたように振る舞うな


__お前が原因なのだろう!


「この、化け物ッ!」


石が頭部に当たる。魔力が何もこもっていない投擲物。魔力防御が少しでもあれば無傷なるであろう弱々しい一撃。

気にする攻撃ではない。他の救助に行かなくてはならない。

この程度、気にする内容ではない。気にする必要性はない。


「もっと、もっと、助けなくちゃ」


血を流しすぎたかもしれない。体に安定性がなくなって、歩きにくくなってきた。

でも、まだ、助けなくちゃ。


「お前が原因なんだろ!見て見ぬ振りするな!お前が原因で!」


あの子は助かっている、あの子は問題ない。俺が次に向かうべき場所はそこじゃない。

もっと別の、助けを叫びたくても叫ばない子のところに向かわなければ。


「ディニア!もう問題ない!救助に強い冒険者が来てくれた。だから問題ないんだ。帰って、ゆっくり休憩しよう」


「そうか、そうだなぁ」


グラグラと揺らぐ体を支えてもらいつつ、俺は歩いて行く。

魔力噴射で移動できたら楽だけど、救助で魔力カスカスだからなあ。血も少なくなって、思考回路が上手くまとまらない。

魔力回復しても、ろくに飛べないだろう。


本当、申し訳ない事をした。ダニスだって戦闘をしていたのに、救助を手伝わせ、体を支えてもらっている。

自分の不甲斐なさに腹が立ってくるレベルだ。

体調戻ったら、何か詫びを入れないと。


「ぁ」


体のバランスが本格的にほつれてきた。支えてもらっていても、体が地面に倒れ込む。

でも、もうすぐだ。最初に修行をしていた場所まで戻ってきた。

川のせいで体が冷え込んでいるが、気を張れば何とか歩けそうだ。

頑張れ俺、もう少しだ。


「もう休んでいい!疲れているだろう。木陰で休もう。辛いまま体を動かしても、泣けるだけだ。落ち着かせて、息を吐け。今は何を吐いても許される。毒だろうと、弱音だろうと、遠慮なく吐いたらいい!」


良いのか、吐いても。情けない弱音を吐いても、誰も責めないのか。


「涙を流しても、軟弱だって言わないか?」


「言う訳ない。だから、好きに泣け、好きに吐け。今のお前にはそれが許される!」


その言葉で境界線が崩れる。我慢しようと、押し殺そうとしてきた水の境界線がボロボロになり、涙として出てくる。

ダニスを掴む手の力も大きくなり、自然と魔力がこもってくる。

強く掴んでいるはずだから、痛いはずだ。離れてくれって言っても誰も文句言わないのに、それでも聞いてくれている。


その状況にポツポツと喉から言葉が漏れ出てくる。ダニスには言うつもりがなかった言葉。でも、口に出してしまった言葉。


「だにす、おれ、バケモノって言われた。分かっていたつもりだった。でも、でも……!」


「あぁ、あぁ…!」


もしかしたらって、希望を抱いていたんだ。

あれだけ頑張ったんだからって。誰か一人には認めてくれるんじゃないかって。

現実は違った。誰一人、安心したような、感謝を伝えるような視線は来なかった。

俺だけじゃなくて、ダニスにまで。


爺様も「化け物」と言われたと言っていた。生半可でそれを脱却する訳ないと勘づいていた。

けど、期待していたんだ。人々の変貌を、期待せずにはいられなかったんだなぁ。

こんな俺でも、成せば誰かに認められると、本気で思ってたんだ。そう思わなきゃ、やっていられなかった。


「だにす、おれは何のために戦ったんだろう。助けただれかに罵倒されて、そうされてまで戦った意味ってなんなのさ」


「教えてくれないか、だにす。おれはどうして戦っていたのかを。だれかに罵られてまで、戦った意味と意義を。頼むから、教えてくれ」


ダニスは沈黙を貫く。けど、その顔には苦虫を噛み潰したような、重苦しい表情が乗っていた。

それで、ようやく自覚した。俺のしている行動は、八つ当たりに分類されるものなんだ。


「だにす、おれ、もう……戦いが辛いよ」


「…ごめん」


ポタポタと落ちてきた雨と共に、その言葉が俺の脳内で往復をする。


「なんで、謝るんだよ…」


世界なんて、クソッタレだ。

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