第37話 消耗品である

「ふっ!」


「はっ!」


「「はぁっ!」」


魔力が丁重にこもっている木剣と大剣が重なり、重低音が響き渡る。

剣戟が周囲に展開され、技の応酬となって戦場を支配していく。

雑魚どもの干渉は許す事なく、あくまでも個と個の戦いを続けている。

真っ向勝負を望む騎士性が存在して良かったよ。口だけだったら、もう死んでいた。


まあ、だからと言って今がピンチじゃないかと言われれば……そうじゃないんだが。

こいつの戦闘タイプ、スロースターターなのか。時間が経てば経つ程、剣戟の技量もパワーも桁違いに上昇していく。

一騎当千という四字熟語が浮かび上がってくるぞ、自然と。


「随分と身軽じゃぁねえの。それ結構重いロングソードだと思うんだが」


「主の寵愛が、体を動かしている。ゆえに、この程度の重さは誤差と感じれる。お前はこの者の為に振れる剣はあるか?」


「さぁて、どうだろうな」


教える訳ないでしょうが。熱い戦いをしようと、俺の殺意は消える事はない。

馴れ合いをするつもりなど、存在しねえのさ。


「うむ、魔力が程よく絡んでいる。これはあの高威力な魔法も使えるというものだ。遠慮なく使え」


使えるんなら使ってんだよっ!お前との剣戟、打ち合う度に余裕がなくなってくるからな。

魔法なんていう脳の一部のスペースが必要な技は使ってる場合じゃねえんだよ。

使ったら即殺で狩られてしまう。相手がお前じゃなきゃもう使ってる。


強化だってそうだ。今のシンプルな強化ですら、これ以上を出すには属性を組み合わせる他ない。

属性の引き出しねえ、あれ意外と秒単位でやるの難しいんだよ。

どうやって上澄の連中はやっているのだか。

全く全く、理解に苦しみますよ。


「なにっ!?」


「ほんと、最近こればっかりだ。ボロボロになるのは俺の専売特許じゃないんだが」


だから、俺は犠牲を伴って魔法を発動させる。大剣が打つであろう部位に今の何十倍の強化を施し、打たれても問題がないようにする。

つっても、結構ギリギリだったけどな。狙われていた首に相当な強化を施したが、それでも血がタラタラと流れている。

もう少しで首の骨にまで到達するところだった。


本当に命懸けだった。少しでも出力が落ちていたら、負けたのは俺だった。

スレスレ過ぎて冷や汗ダラダラだぜ。


「賭けには勝ったからな。そのツケを払ってもらおうか」


"狂気の道化師・風の土鳴クレイジーピエロ・アーマーストロングス"


耳を鳴らすのは石がぶつかる重低音。そして、風が凪ぐ静かな音。

魔力と共に体へと寄り添い、強化という結果論を導き出す。

無論、風と土の属性効果はそれだけに収まらない。物体攻撃ができる程度まで具現化レベルを底上げする事も可能だ。


そう長続きできるモノを作れる訳ではないが…魔力ある限り作れる無限の兵装としては機能する。

さあ、たんと喰らいな。その鎧の中、風の魔法をぶちかましてやる。


"ノワール流魔法剣術、祝音・天奏しゅくおん・てんそう"


「かっっった…!」


風属性で作り上げた短剣を鎧と鎧の間に突き刺したが、肉に上手く突き刺さらない。

そもそもの肉の硬さか、魔力が張り巡らされているのか。

あぁ、高位のマギリアルってのはこれだから嫌なんだ。弱点らしい弱点がねえ。あっても弱者には突けねえような強いもんだ。


命を賭けなきゃ、同じ土俵にも立たないんだ。

いや、命を賭けても、か。そうしても、同じ土俵に立てるかは運。

ったく、努力しても追いつかないのが多すぎるぜ。世界の非条理には、とことん呆れちまう。


「重いな。貴様の攻撃、技術、同じ騎士として尊敬をしよう!だが、俺には届かない。拳にて、塵芥へと化すが良い!」


短剣が内部に届く事もないまま、腹部に右ストレートが飛んでくる。

迫り来る風切音と魔力で分かる。これを受けたら腹が吹き飛ぶ。臓器がそこら辺に飛ぶレベルじゃない、跡形もなく吹き飛ばされる。

再生も考慮に入れて、再生できないであろう範囲のパンチを打たれている。


速いな、強いな、化け物だなあ。冒険者として相対したくないなんて思ったの、俺にとっちゃぁ初めてそのものなんだよな。


__本当、これ使うの早いわ


「とっておきのつもりだったんだがな」


"神法道理・命綱ワン・コイン"


"純潔にして逆転の一手ホース・ハース・カウンター


爺様から貰った宝具。その効果はマギリアルから受けたダメージを聖属性として反転させる。

この道具はもっと後に使うつもりだったんだけどな。

交渉道具としても使えたし、参考の道具としてもまだまだ使えた。


本当、惜しいぜ。


「体の中という中が弾け飛んでいるのではないか。マギリアルにとって、聖属性は猛毒だもんなあ」


「用意周到とはこの事か。しかし、俺はまだ地に伏せていない。敗北を経験してはいないのだ!まだ負けん!」


「そりゃそうだな。じゃあ頑張ってくれよ!」


反転だけじゃ倒せないのは想定してた。自分で繰り出した同ダメージで負ける程、こいつはマヌケではないだろう。

だがよぉ、俺にもう一つの武器がある事を忘れていないか。鎧と鎧の間を突き刺そうとする短剣さんをヨォ!


硬すぎる魔力防御も、内側の反転では少し緩むよなぁ!だったらブッ刺さるんじゃないか!?


「騎士でありつつ、策士でもあったか。戦う者として、尊敬しよう」


短剣が刺さった騎士は、数秒のちに言葉と共に地面へと落ちた。


「俺は大っ嫌いだったよ。馬鹿野郎」

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