第36話 マギリアルである

「ゲゥラァ!」


一瞬で数匹を殺した俺に襲いかかってくるのはオーク達。他にもマギリアルはいるが、今のところはオークに様子見を任せたようだ。

ふー、助かった。憤慨の感情できてしまったが、脳裏に組み立てている作戦は皆無。

この場にいるマギリアル全勢力。それで来られていたら俺はすでに負けていた。


コンビネーションがカケラしかいないコイツらなら、意外と簡単に切り抜けられるかもしれん。

とは言っても、切り抜けたら他のが来る。一人で何とかするのは不可能。

ゆえに……ちょっと危なくなったらダニスに入ってもらう。そして入ってもらう為の注目コントロールもできるだけ俺がしなければならない!


「剛鉄鉄鉄鉄。おめぇら鉄好きだな。けど、木だって結構強いんだ」


「魔法と上手く組み合わせる事ができてよ」


"射程外からの風鳴りアンダーストライク"


戦いによって生成された衝突による魔力。それを利用しての大規模防風魔法だった。

全部を殺せるように鋭利にしていたが、数匹瀕死で生きている奴がいる。

配分ミスったかな。それとも、他よりも硬いタンクだった、というだけか。


今の俺的に、一匹でも許せる気配はしない。何故なら理不尽なまでに八つ当たりで憤慨しまくっているのだから。

さぁて、どの択があるか。使える魔法は聖、火、風、土。土と風はダメだな。相殺される。火は相乗があるだろうが、周りの影響がひどい。

今の俺は好きな戦える状況じゃない。広範囲の暴風は……うん、少しミスった。多分後で謝意を送ろう。


だとしたら、最近覚えたばっかの聖属性だよなァ!


"月が泣いた、その涙は手の中にラスト・ジレクトムーン"


「その技は困る。流石に殺意が高い。こちらがこれ以上戦力が減るのは望ましくない。どうだ、これで手打ちにするのは」


受け止められたな。割と本気で撃ったつもりなんだがな。

つまり、他と比べても装甲が硬いって事か。それも、何十倍ってぐらいには。

でもさあ、なってないわ。


「お前さあ……交渉下手だろ。様子が見えていないのかバカなのか、これで行けるやろと思っている交渉ナメナメマギリアルなのか。まあ、知性があるとは言え、マギリアルを集めただけの烏合之衆。後者かな」


「貴様…ッ!」


その簡単にキレキレになっちゃうところ、そういうのが烏合之衆って言ってんだよ。

交渉担当なら煽り合いができる奴を連れてこい。

相手の発言に対して怒って、自分が降りた目的をちゃんと照らし合わせてから来い。

常に最悪のケースを考えろよ。


まあ、それができないから傲慢性高々マギリアルちゃんなんでしょうけどねぇ。


「大層な大剣様だなァ!盾になる装甲、リーチの高い大剣があれば、良いヒットアンドアウェイ戦法になると思うよ!良かったな!」


「口を閉じろ、小僧…。貴様に騎士の何が分かるというのだ」


「襲ってきた奴が騎士道を語るなよ。騎士道なら真っ向勝負だろ」


というか、騎士なのか交渉人なのか立場をハッキリさせたらどうだ。

それか別を設けるか。騎士に交渉人なんて、合ってないもんな。騎士道を持ってる奴とかは特に。

こいつはパチモンだろうが。


「おいおい、攻撃の手はどうしたよ。黙って欲しかったら手は止めない方が良いと思うぜ。俺みたいな手癖の悪い奴等はそれを突いちゃうからよ」


騎士は俺の手数攻撃に防御を決め込んでいる。カウンタータイプなのか、別のものなのか。

俺は知らない。知らないからよお、俺はカウンタータイプだろうと別のタイプだろうと問題ねえ択を用意してきたんだよ。


…その瞳に焼き付けるといい。ノワール家が誇る防御無視の剣術を。


"ノワール流剣術、壺壺つぼつぼ"


大剣を避けた体から繰り出される"壺壺"に脅威を感じてくれたようだ。

さっきの気を抜いた態勢から臨戦態勢になっている。ご自慢であろう魔力と肉体を駆使し、拳は俺に打撃として炸裂しようとしている。

速いな。これならば確実に直撃をする。だが、出てくるのが一段階のみ遅かった。


だから、直撃しても、俺のを退けるのは間に合わない。


「くっ……こほっ」


崩れた村の家に体が吹っ飛ぶ。ボロボロの板材が体にかさばって、少し重い。

あー、家に巻き込まれるってこんな気持ちなんだな。少し気分悪いやわ。

頭ひどくぶっけた。額から生暖かい液体が流れ出してる。


最近、俺の体血が流れすぎなんだよなあ。

ボロボロになり過ぎ問題、実はあると思います。油断しすぎって言われたら……うん、言い返せないんだがな。


「おしゃべりな口はもう出ない。貴様の体はもうボロボロだぞ」


「ボロボロ?だったら条件は同じだな。右肩の大怪我で見栄っ張りをすんじゃねえよ」


"ノワール流剣術、壺壺・完遂"


その言葉と共に右手の人差し指を上げれば、騎士の右肩には大きな切り傷が作られる。

届きにくかった装甲が一気に届いたの、最高の気分だぜ。


「舐めるなよ、クソガキ…ッ!俺はマギリアルだぞ。そのくらい、能力で何度でも再生できるんだッ!お前と条件は同じ?違うんだよ」


あぁ、知ってるよ。高位のマギリアルは基本的な能力として再生能力がある事は知識としてある。

喋るような奴が、再生能力がない訳がない。しかし、俺には存在していない。

こいつの言う通り、俺と騎士では条件は同じではない。

だから、俺は貴族らしくブラフで並ぶとしよう。


「じゃあ同じだろ」


「は?」


「俺にもあんだよ。再生能力。お前のセンサーに引っかかってるんじゃないか?俺の気配の中にマギリアルが存在しているって事」


「それは…」


「もちろん、再生の欠点も知っている。硬直の仕方も頭に叩き込んでいる。お前の再生を遠慮なく狩れるんだ。どうする?」


…これは命懸けの嘘。ブラフだと思われ、再生の手段を打たれてしまえば圧倒的な不利となる。

それは、この時点での推定敗北を意味するだろう。

実力は僅差。だが、再生能力があってはその実力差も勝利への誤差となってしまう。


木剣を握る手に冷や汗が宿る。これが失敗したら俺の命は塵芥と共に消え去るだろう。

ここまで冷や汗出たの、久しぶりだよ。だが、それを表に出すな、俺。ポーカーフェイスであり続けろ。圧を出し続け、選択肢を潰せ。


「俺にとって、それは狩りやすくなるだけだ。同じ騎士としてアドバイスだ」


「何故だ。何故アドバイスをする」


「卑怯な方法で勝つのは騎士らしくない。騎士には主に勝利を届ける役目もあるが、真っ向勝負で勝ちたいという誇りもあるだろう?」


「そうか…。貴様のアドバイスに乗ってやろう。誤認していた、貴様を騎士だと思い、相手をする。良いなッ!」


「ありがとう、お騎士様」


とりあえずだ、ブラフ作戦は大成功!もう一つのブラフも貼れた。

心臓バクバクだが、勝負にはなる。

サンキューって言いたいところだぜ、腹黒貴族に腹黒魔法使いさんよぉ!

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