第34話 勇者である

「「しょ…ショボイ!」」


どうも、菌糸と禁忌の森を越え、新しい迷宮圏(12個目)をクリアした俺氏とダニスでございますわよ。

菌糸さんの下層のボスはてんこ盛りマギリアルよりも弱いし、他の迷宮圏もてんこ盛りよりも手応えはないし。

なーんでここ周りの迷宮圏は状態異常付与みたいな能力しか持ってねえんだよ!

最低か!?最低だわ!誰だこんな迷宮圏を使った奴。阿修羅と魔法で血祭りにしてやりたいわ!


そんな騒ぎ立てたところで状況が変わるはずもなく…今は次の迷宮圏の依頼か、王国に介入するチャンスを待つのみ。

Sにはなれたけどぉ!なんか違うじゃん!状態異常の迷宮圏だけ攻略しても、超格好いい冒険者にはなれねぇだろぉがよ!


「当初の目的は達成できたんだから、そこまでヤケ酒する内容でもないと思うが」


「バッキャロウ!男であったら格好良い姿を見せたいのが常ってもんだろうが!お前…男児が脚色された英雄譚に憧れを抱くのは何故だと思う。英雄が格好良いからだろうが。お前だって、じい…天数手様に憧れるだろうがッ!」


「そ、それは認めるが、話がだんだんずれてきて」


「きてません!俺は認めないってんだ馬鹿野郎!」


ぷんぷんと激おこ丸をしつつ、脳裏にはある思考がよぎっていた。

これ、明日酷い二日酔いになるヤツだ、と。

称号の[酒豪]って便利だよな。どれだけ酔ったかを脳に届けてくれるんだから。

そんな状態でも、冷静に判断ができる[酒酔いⅠ]も最高だなぁ。


こんな意味わからんアホ発言ばっかしている時点で冷静に判断できていない?それはそう。

冷静な判断って言っても、過程だけだからね。結果は捻じ曲げられちゃうから。

これはしょうがないってやつさ。


「だったら酒飲むの辞めろよ。明日が酷くなるぞ」


「はっはー!それが理解できてたら酒飲みは酒に逃げてねぇんだよ!」


満タンにある酒瓶を手に取り、笑いながら酒を飲む。あははは!笑いながら飲んでるから、めっちゃ酒がこぼれる!おもろ!おもろ!おもろ!

だははは!最高!俺最高に面白いよ今!


酒を浴びるように飲んでいる時が一番楽しくて一番面白いよ!


「あなたが最速?」


「へ?」


そうふざけていましたら、一人の少女に話しかけられましたと。

常に魔力を練っているな。いつでも戦闘態勢に入れるようにしているのか。

その精神、悪くない。魔力の練り方も中々だし、手の裏に魔法を仕込んでいる。

速攻相手に攻撃を与えられる手段って事か。

魔法使いは粘着する癖して正々堂々を望むし、騎士は騎士だし。

こういう手を使ってくる相手、結構久しぶりかもだな。


まぁでも……こいつ、欠点がどうしようもない欠点だ。

自分の能力を信じすぎてる。いわゆる過信って言われるヤツだ。

慎重なヤツでも、こうなる時はこうなる。

力を与えられれば、増長するのは人間のサガってもんだ。


「そこまで警戒しないで。私はあなたが見てみたかっただけだから」


「それのどこがだよ。お前、闘争心フルフルマックス状態じゃねぇか」


「…すさまじい観測力だ。隠していたつもりなのに」


隠していた?あれで、ねぇ。あの闘争心、どう考えても隠れてねぇ。

こいつの欠点、過信だと思っていたが。それ以上の欠点があるな。


「遊んでやる、来いよ」


「それは舐めていると受け取っても?」


「逆にさぁ、CがSに勝てると思ってんの?」


「ふふっ、そうですかっ!」


おぉ、怒りからのバスターソードの大ぶり。

力にやるゴリ押し。マギリアルや隠した相手なら良いと思うが…圧倒的格上に対しては正解ではない。

魔力防御ができる格上なんて、ゴリ押し戦法ができる訳がない。

今回の場合は、魔力防御の隙を突く刺突が正解だよ。

まあ、この子にそれを見抜く技術があるとは思えないけど。


さぁて、どうすっかな。この子のバスターソードを振るう技術、我流なんだよな。

それを指摘するかな。いや、確定でそうなんだけどさ。

問題はその方法だ。魔力防御で防ぐか、同じバスターソードで指摘するか。

……後者にするか。多分、この子には一番それが合ってる。


あんまり得意じゃないんだけどねぇ。俺の得意な武器って短剣と片手剣なんだが。

本当、力がある若い者と退治するのは疲れるねぇ。あ、俺も若者だった!


「1」


バスターソードが直撃するまでの猶予は三秒。

だからまずは……その三分の一を利用し、手元にバスターソードを召喚する。

ここで方向をミスったり、暴発したりすると地面に突き刺さるが、今回は暴発なかったか。

完璧ですね。うしうし。これで後は展開のさせ方だ。


打ち下ろしのバスターソードの刃に俺のバスターソードの刃を重ねる。

そうすると刀身は固まり、中々動きにくくなる。

この状態で俺のバスターソードの角度を変えれば、胸元に行き…チェックメイトって訳さ。


「っと、3もいらなかったな。……それで?どうだった。最速と言われているらしい俺の実力は」


「…異次元。私なんかとは、比べ物にならない程には」


「そりゃぁバインドの技術を覚えちゃいねぇ小娘に負ける訳にはいかねぇからな。俺に勝ちたいんだったら、精進をする事だな」


「精進……分かりました。弟子にしてください」


「は?」


「へぇ」


「弟子にしてください!!」


「はぁあ!?」



※バインドとは、日本で言う鍔迫り合い"みたいな"技術である

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