第31話 神楽と苦悩である

どうも、[封印・解Ⅰ]を獲得してから、それも鍛錬内容に追加されてしまった俺氏でございますわよ。

いやね、ただでさえ阿修羅でキツいのに、それも追加されちゃ困っちゃう対象ですわよね。

あー、夢みたいに力を扱えないかなぁ。


「ということで来たよ、ゼロちゃん」


「それで夢は向いていなさ過ぎない?というか、阿修羅は[封印・解Ⅰ]を獲得できた有式くんなら、結構早くモノできるよ」


えー、本当 ?その感覚全然掴めないんだけど。その炎を利用しようとしても、阿修羅と反発して弾いちゃうし。

俺の阿修羅、爺様と同じで炎のタイプみたいだからさぁ。上手くできないんだよ。


これって俺が下手なだけか?魔法とかを扱うみたいに[操作Ⅶ]で動かそうとしているんだが。

同じような代物だって思いながら動かしてるけど、できないんだ。

時間が少な過ぎるってのもあると思うが。


「そりゃできないよ。魔法も感情に影響される事あるけど、阿修羅は特定の感情が大幅に影響するモノだし」


「ほーん、へー」


「分かってないでしょ」


「うん!」


「清々しい自白」


ゼロちゃんはため息を吐きながら、俺から少し離れてから着替える。

周囲の魔力を服装に変換させ、装着する。人間の魔法使いなら呆け顔を見せる程の高度な魔法だ。

巫女服、ね。うん、可愛い。推定俺の相棒ちゃんはいいですなぁ。


んで?何をするの、ゼロちゃん。

俺が阿修羅をする為に一緒に踊る?え、俺あんまり踊れないんだけど。

問答無用ですか?ぁ、はい、そうなんですね。そっかぁ、問答無用かぁ…。


***


はー、めっちゃ生気を搾り取られた。夢の中だからって遠慮なく踊りやがって。

なーにが明日までに情熱の炎と阿修羅の両立をしろ、だ。無茶に決まってんだろ、ゼロちゃんのバーっか!

俺は悠長に釣りをするもんね!


「戦い、刹那の道理、六つの一つ、鏡の六道、悪の天、光の点」


そう割り切れたら良かったんだけどな。えぇ、えぇ。釣りをしながら阿修羅の詠唱をしておりますよ。

だってぇ、阿修羅をさっさとモノにしないと、大好きな魔法に取りかかれないのです!

デモ…。魔法を長く使ってきた人には、阿修羅って難しいんだな。


俺だって、阿修羅を叩き込まれ、封印解除していなかったら、もっとかかっていた。

ズルをしても、詠唱を挟んだモノでしか発動できない。

はー、情けな。


「おめぇさん、随分と暗い顔をしてんな。なぁ、ディニア」


「爺様か。別に、そんな暗い顔はしてねぇでしょ」


「いいや、している。オレァどれだけ生きていると思っている。おめぇや白鯨小僧程度の感情の変化。手に取るように分かっちまうよ」


爺様のゴツゴツとした手が俺の頭に触れる。それが、俺の全てを見透かされているようで。

隠したい自分も、全て見られているような気がして。

少し、涙が落ちた。


グランに言われて、ゆっくり歩いてきた。非才なのも受け入れて、自分のできる事を着実にしてきた。

だが、その結果が今だ。魔法も、肉体も。全てが常識を逸脱していなかった。

俺が生きているのは偶然と偶然が重なり合って存在しているだけの幻想でしかないんだ。

見逃してもらって、最初から処分されずに、都合よく強化された。


俺が強かったら、それにはならなかった。ミカを、親父を…大切な人を心配させる事はなかったんだ。

全ては、俺の力不足ゆえ。俺の努力が、俺の才能が、全てが足りなかったから。

その天罰として、今の状況となっている。


ミカは支えてくれると言っていた。その言葉を思い出して、思う。

俺はきっと、これから迷惑をかける。ミカや親父だけではない。化け物と言うのに値する俺は、世

界に悪影響を与えてしまう。

その点から見て、俺は毒物なんだ。存在してはならない、禁忌。


本当は死ぬべきなんだ。皆に悔恨を残さない為、さっさとこの世から消え去るべきなんだ。

でも、無理だ。俺は弱虫な人間だから、死ぬのを考えたら震えが止まらない。


「おめぇ、やっぱりあの青臭小僧と親子だな。青臭小僧も昔言っていた。自分が存在しても良いのか。そんな戯言をゴチャゴチャ言っていた。良いか悪いかで言えば…悪いだろうな。だが、世界に毒物ってのは付き物だ。気にするもんじゃねえ。前を向けよ」


…無責任な。化け物と呼ばれた事がないから、そんな勝手を言える。

真に化け物と呼ばれたら、前を向けない。前を見ながら歩いてなど、行けない。

自分がどんな事をしても、脳裏に言葉がよぎる。こびりついて、染み付いて。自分の事を正当化できなくなって。


それを知らないから、爺様は。


「だが、今すぐに前を向かってのは無理な話だ。心に染み込んだ傷はそう簡単に消えやしない。オレェも経験した事がある。相当ツレェもんだ」


爺様はキセラを取り出し、咥えつつ、体験談のように話す。

いや、実際として体験談なのだろう。爺様の瞳は遠く見ている。

昔にその動作は覚えている。昔は思い出す時にする仕草だ。


爺様も、なのか。神聖国家最強の司教と言われていた爺様が…。

俺だけが異物だと思っていた。でも、爺様だってそうなんだ。

俺は、なんて事を…。


「かっかっか!小せえ事を気にすんじゃねぇよ!オレァ若い時は周りが見えてなかった。ガキが一つの失敗で案ずるんじゃねえよ!だから、今のおめぇはミカの嬢ちゃんと愛し合い事だけを考えてたら良いんだよ!それ以外はオレェが何とかしてやる」


爺様はそう言って、俺の背中を叩いてきた。豪快で、強烈で。見た目通りといや見た目通りの行動。


でも、俺は確かに救われた。

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