第30話 修羅と夢である
▶︎熱燗手王からの干渉を確認。防御網の撤回を開始し、
どうも、熱燗手王状態の爺様の攻撃をくらい、ダウンしたと思ったら意味わからん場所に訪れてしまった俺氏でございますわよ。
いやねー、零式仙音とかよく分かんないよね。封印装置って書いてあるから、物体だと思ったんだよ。
そう、思っていたんだけどなぁ…。
「初めまして、と言った方が良いのかな。私は零式仙音って言うの。よろしくねー。ぷいぷい!」
ピースの状態を両手で作り、頭部に二つとも乗せる。愛嬌のある可愛らしい顔が組み合わされば、封印装置とは思えない。
うむ、あざとい。ミカが着飾らないタイプの人種だから、余計にあざといと感じるぞ。
とりま俺はゼロちゃんって呼ぶよ。
でよ、で。君は俺のなんなのさ。封印装置とは言われても、俺の何を封印しているのかが分からないよ。
封印っていうぐらいには重要なんだろうけど、その具体的が分からなければ、俺はどうしようもないんだ。
頼むよゼロちゃん。俺は君の事が知りたい。
「にゃはー。熱烈な求愛だねぇ。私、嬉しくてびょんびょんって跳んじゃうよ。ぷいぷい!」
「ゼロちゃん」
「分かってるよ。そんな急かさなくても」
そんな言葉から出された
近くで落雷のような強烈音が鳴り響き、直後に頰スレスレで衝撃波が二回程通る。
あまりの強力、強烈さに言葉が出ない。少し切れた右頬を抑えながら、現実を整理する。
このソニックムーブ、ただの衝撃波じゃない。魔力が纏われ、「斬撃・刺突・打撃・魔法・呪い」のタイプが含まれている。
そんな大業さんだが、ゼロちゃんにとっては大業じゃないっぽい。
打撃と魔力を織り交ぜた完全魔力依存型の技であるものの、ゼロちゃんの魔力は0.1割も減っていない。
攻撃をしてきたって事は、実力で示してみろとか、そういうタイプなんだろうが……冗談キツいぜ。
こんなバカ強いゼロちゃんに実力を示せとか、死ねと言っているようなもんだろ。
「ッ!」
ふー、危ない危ない。あのまま受けてたら、瀕死の重傷だったぜ。
ソニックムーブ……怖いねぇ。不可視に強烈な二度の攻撃。
俺が対峙してきたどんな技よりも恐ろしいわ。
ほんと、人が戦うレベルじゃねぇよなぁ。
大業って言えるタイプの技をポンポン出してきやがる癖して、魔力の減る様子は一向に見えない。
底なしの魔力ってか?底なし過ぎんだろ。
これが人外の実力、とでも言いたいのかねぇ。
実力を見せつけるにしても、もう少し優しくしてくんねぇかなぁ。
はぁ、どうすっかなあ。不可視の衝撃を回避できているのは危機感によるものが大きい。集中力が切れ、働かなくなったら終わりだ。
打つ手なし、か。魔法を撃って効くか試してみるのもありだが……魔法を撃たせてくれる隙があるとは思えねえ。
チョピットの魔法なら今からでも撃てるが、効くとは思えない。
大きめな技なら効くかもだが、あれは隙が大きい。多分狩られる。
「有式くん。君は常識を考えない方が良い。ここは夢。君の想像通りに世界は変形する。だから、掴んでよ。私は君にできると思って封印の試練を渡してる」
何なんだよ、封印ってのは…ッ!試練を渡してるとか、意味わかんねえ。
あと、俺は有式じゃねえ!ディニアって名前が…。
『へー、相方は零式っていうのね。だったらネームは有式とかにでもしておこうかな』
有式は、俺の名前…?いや、でも、俺はディニアって名前で。
『お、ゼロちゃんやるぅー!色々なNPC見てきたけど、知能高いなぁ』
俺と、ゼロちゃん。拒む者と、慈しむ者。嘆く者と、導く者。輝く者と、映す者。
俺の役目は、俺の役目は…全てを。
「ダァぁぁ!やかましい!役目役目うるっさいわ!俺のすべき事は、ミカと共に添い遂げる事。それ以外にねえ。だから、黙ってろォ!」
《スキル[乖離する運命]を獲得。第一として、スキル[封印・解Ⅰ]を獲得しました》
その声の直後、俺の体温が急上昇する。へその部分から情熱の炎を感じる。
今まで感じた事のない炎。俺の扱うどんな火魔法よりも何段階か上の境地に達している。
封印って形で強化されるのは癪だが、少しは追いつけるか。
強化となっても、無動作は変わらない。動きはどうせ見えない。だから、全力で魔力の起こりを感じる。
普通じゃできない。覚醒したばかりの力を最初から扱うなんて。
でも、ここは普通じゃない。ここは、俺の夢なんだ。俺の夢だから、俺は俺の好きなように変貌できる。
少し、信じてみよう。俺の可能性を。
「感じたぜ、お前の魔力…!」
へそを起点とし、体に密着している炎が離れる。不可視で、様々な特性を持ち合わせたソニックムーブさんの起こりを感知した瞬間、炎を投げる。
ナイスヒット、とでも言ったところかな。
ギリギリだった。少しでも遅れていたら、今ここに俺はいない。
ここが夢の中じゃなけりゃ、とっくに対応できずに…。
「及第点だよ、ぷいぷい!」
これで及第点?冗談きついって。
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