第29話 仙人である

「かっかっか!久しいじゃねえかよ、ディニア。会ったのは何年ぶりだぁ!?おめぇが本当に幼い時だったからなぁ。赤子だったか?そんぐらい小さかった気がすんぜ」


「爺様、それは気のせいって言うヤツだ。爺様と最後に会ったのは、俺が5歳の時だ」


どうも、片目が潰れ、切り傷が顔面中に沢山ある爺様と話していて緊張してきた俺氏でございますわよ。

いや、それだけじゃないな。そりゃ顔面も強烈だけど、少し強くなったからか、実力面がよく分かる。


正確には分かんねえけど、ニケや父様、神聖ジジイみたく、得体の知れない莫大な恐怖が感じ取れる。

これは最近結論を出したんだが、本能が感じとっていると思ってる。

自分の実力と相手の実力。それを見た時、勝てる可能性が低かったら恐怖を抱く。

得体の知れない莫大な恐怖は、勝てる可能性がゼロも超えてる化け物って事だ。


まだまだ俺の実力が低いってのもあるだろうが、この人らの戦闘能力が高すぎるってのもあるだろうな。


「かっかっか!歳は取りたくねぇもんだなぁ。時間が過ぎんのがはえぇ。昔に見たガキも随分と大人になっていやがる。なぁ、白鯨小僧」


「白鯨小僧?」


「…お、覚えていらしたのですか。てっきり、私は忘れているものかと」


「ばっきゃろう!あんな面白い…バカな小僧は中々見ねぇからな!不安で記憶にこびりついてるって訳だ。どうだ?あの時の命を賭けた女との生活は。子供作ったか?結婚したか?」


爺様、随分と不躾を聞くもんだな。

ダニスが恩人っていうタイプで見ているから穏便に収まっているけど、人によってはキレられる内容だぞ、これは。

まあ、爺様だし、そこら辺は見極めているか。爺様だし。


「いえ、子供はまだ。冒険者というのは他から狙われる職ですから。拠点がもう少し安全な場所になってから」


ほうほう、あのパーティーメンバーに狙われていた話はこれですか。

なるほどなるほど…。これはうまうまですわ。

定期的に聞かせてもらわねばですな。

俺ばっかりに言わせようとして。ずるいよ!ダニスちゃん!


「そういや、おめぇら、オレの弟子になりにきたんだってな。人を逸脱する覚悟はあんのか?」


「当たり前だろ」


「えぇ。元よりそのつもりでこちらに来ました」


「かっかっか!良いな、良い覚悟だ。おめぇらを弟子にしてやんよ。殺す気でやるから、死ぬ気で気張れよ」


うへー、キツそう。あんまり苦しいのは体験したくないけどねぇ……ミカと並ぶ為だ。

ビンタでもして頑張らなきゃなあ。

爺様!いつからそれをやるんだ!

今日?まあ、確かにね。Sランクになる帰還が今日から一ヶ月なら、今日から鍛錬した方が良いよな。


そんじゃ行くか!

え?爺ちゃん特権で俺と二人で話す?

えぇー、早くしたいのに…。さっさとしてくれよ。俺は爺様と世間話をしにきた訳じゃないの!


「白鯨小僧に関してだ。おめぇ、見たか?少し曇った顔を」


…やっぱり、爺様も気づいているよな。愛している女の話をして、活き活きしていた言葉が急に萎んだ。

あんな顔は見た事がない。でも、踏み込む事はできない。仲間と言われても、心のテリトリーを踏む勇気はない。


「オレァ呪いだと踏んでいる。白鯨小僧に恨みを持った奴のな。だが、呪いって言っても大したもんではないな。寝たきりだ、軽度といってもいい」


「だが、オレァ呪いを解く訳にはいかねえよ。アイツにこれ以上オレェへの恩を背負わせる訳にはいかねぇ。だから、孫のおめぇがやれ。おめぇならできる」


なんか、難易度が上がった気がする。

強さだけではなく、他人の心のテリトリーに上手く侵入しろと?無理だろ!


***


「待たせたな、白鯨小僧。すこし話し込んじまってな」


「いえ、それは大丈夫ですけど…ディニアの顔死んでません?」


気のせいじゃないよ。俺は事実として死にかけだよ!

普通よりも激しくすると言われ、ダニスの心に上手く滑り込めとも言われた。

それを成す為に必要な技術も教えられた。

ほんとうに最悪。ただ国家転覆しようとしたら、MMORPGを両方同時にプレイしている気分。

うん?国家転覆しようとしたなら、それは当たり前?…それはそうだね。


そんなこんなで疲れたのですよ。という事で、今日は休みに…なりませんよね知ってました。


「おめぇらに教える技術は困難な技だ。他人への大きな感情、または上位への祈る心がないと発動する事はない。時間をかければ取得できない事はねえ。だが、その時間はおめぇらには存在しない。だから、おめぇらには死ぬよりも辛い事を経験してもらわにゃならん」


隻眼の瞳はこちらを見てくる。意思を確かめるかのように、歴戦のひとみはあこちらを見てくる。

さっきも確認したと思うがな。人を逸脱するのは簡単じゃない。それは俺もダニスも知っている。死ぬ気じゃなきゃ到達できない地点なのも知っている。

だから、遠慮なく行くといい、爺様。


「そうか、よー分かった。おめぇらの目的は目の前の死すらも退けんだな。その言葉通りの行動、見せてくれ」


"多魂数手、熱燗手王"


俺たちを助けた時の姿に変貌し、増えた腕で俺とダニスの胸に手を置く。

んー?なんの変化も起きねえけど、死ぬかける事態になんて…


「くっ…!」


心臓が熱い。なるほど、これが死ぬ危機か。

随分と危ないもんじゃねえ、よ…。

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