第27話 負傷には酒である
「ディニア…いや、クソ灰。お前、また無茶したな?前回に気をつけるとか言ってませんでしたかねえ」
「うーん。不思議だよな、ダニス。いつの間にか無茶してるんだよ。世界の七不思議だと思う」
「お前が過ちを繰り返す馬鹿なだけだろうが!」
どうも、たまたま中立都市にいたダニスパーティーに叱られている俺氏でございますわよ。
今回はした事がした事なので、ミカも口を出してはくれない。というか、とびっきり叱られろみたいな視線で見られている。
かなシーですなぁ。
でも、ちょっぴり嬉しい。会話らしい会話ってミカぐらいしかしてなかったから。
友人というか、近い距離の人と話すのは新鮮に感じる。
「ったく、本当お前はどうしようもないな。なんで無茶をするんだ。周りが悲しむ事を覚えたらどうだ」
「悪いな、ダニス。でも、嬉しいよ。この無茶のおかげで再びお前らに会えたんだ。少しは感謝しなくちゃな」
あ、こんな事言ったら、またダニスに怒られちまうな。
でも、いっか。この言葉は本音だ。間違いなく、俺の心底から出てきた。
だから、それで怒られても後悔はないよ。
ん?どうした、ダニス。驚いた顔の後にため息を吐いて。
なんだ、苦労の種があるのか。……あ、はい。どう考えても俺ですね。すみません。
うおー!頭をワシャワシャするのはやめちくり!髪がボサボサになるし、頭に負った傷が痛むんじゃぁ!
***
「ダニス」
「なんだ、ディニア」
「約束だったよな。終わったら酒を交わすの」
「意外だな…もう忘れているものだと思っていたが」
「馬鹿野郎、忘れるかよ。俺にとって、初めての戦友との約束だぜ?」
和香の飲み過ぎで少々酔いが入ってきたかもしれない。普段なら羞恥を感じてしまう台詞でも、今なら躊躇いなく口にできる。
ほら、ダニスも驚いてる。
……お前、何度目のワシャワシャだよ。今日だけで5回はしてんぞ。
頭に傷があるから痛いって言ったんだろうがよ。
「ガキの癖にクサい台詞を吐くじゃねえかよ。だが、間違いねえな。あの連中から生き延びた。それは間違いなく戦友だ。そんな戦友にはこれをやるよ」
戦友とあちらからも言われ、体全体を包む暖かさを認識した時。その時につまみを出された。
ダニスが「うめぇぞ」と言いながらバクバク食べてる。
お気に入りのつまみなんだろうな。
豆みてぇだが、そんなに美味いのか?
せっかくの戦友のお勧めだ。一粒いただくとしましょうかね。
んむ!んふー!んふー!
これ、すっげぇ美味しい。単体じゃあ塩辛いけど、個性が強い熟酒と上手く組み合わさっている。
くふふ、ダニスがお勧めしてくる訳だ。こりゃぁ酒がすげぇ進むな。
「ディニア。お前、なにが目的なんだ?あそこで戦ってたんなら、帝国から来たんだろう。どうして戦争をしている国から来た」
酒を飲む手が止まる。塩辛い豆を食べる手が止まる。そんな時間でも、ダニスは俺を見つめる。
どうして、いつ、顔に出たか?
貴族としての顔で隠していたつもりだった。普段の俺の姿は少ししか出さず、隠蔽する為の顔だった。
疑われる要素なんて無かったはず。
……あぁ、そっか。最初から疑われてなんか無かったんだ。俺が何かをやらかすなんて、何も考えてなかったんだ。
ただ、不安だっただけなんだ。短い仲でも、二回程無茶をしたのを知っている。
だから、少し怖いんだ。
はぁ。なに警戒してんだ、俺は。重要な任務でも嘘をついた事じゃなくて無茶を咎めてきた人だぞ。食おうとする訳がない。
この人になら、言っても良いよな。
冒険者ってのは口の軽い奴が多いけど、ダニスは言わねえ。戦友として戦った俺の目が言ってる。多分嘘じゃない。
それで裏切られたら……ねぇな。
「そうか、帝国と王国の戦争を止める為…。ったく、そんな重要な情報を俺なんかに渡すなよ。冒険者に一番渡しちゃいけない情報の類だぞ」
「そうだな。でも、お前になら話されると思った。冒険者に似合わない優しさを持っているお前ならな」
いやまぁ、どの口が言っているって話だけど。
途中まで信じてなかったし。
「作戦は?」
「へ?」
「作戦だ。二国の戦争を終わらせる作戦」
あまりの予想外すぎる言葉に、情けない言葉が漏れてしまった。
でも、仕方ないと思うんだ。俺の知識ではダニスは熟慮を下す。リーダーとして、一つの最善へと辿り着く為に全てを見る。
そんなダニスが、即答で返事をした。
一回パーティーを組んだからって、流石にそれはおかしいぞ。
俺にとっては嬉しい答えだが、もっと考えを練るべきだと思うぞ。
戦争を止めるってのは、二つの国を敵に回す事でもあるんだ。
一介の冒険者にその選択は重い。
だから、リーダーとしてパーティーメンバーと話し合うべきなんだ。
俺の事情で、何の頷きもなく犠牲にするのはまずいだろ。
「酔いが醒める事言うな、アホ。お前は俺たちとパーティーを組んだ。戦友として戦ったんだ。既に仲間に決まってるだろ。あと、頷きの云々の件だ。アイツらの肯定なく頷く訳ねえだろうがよ」
あぁ、涙が出そうだ。戦争の話をして、離れられてしまうと思った。
けど、違った。戦争の話を聞いた上で、背中をぶっ叩いてくれる。
でも、違った。魔人を見ているはずなのに、受け入れてくれる。仲間として見てくれている。
良い奴すぎるぜ、ダニス。
「あぁ、あるさ。王国をひっくり返す策がな」
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