第25話 怨霊である

「よし!完成だな」


「ディニア様って時々悪戯っ子に近くなりますよね」


どうも、襲いかかってきた奴らを気絶させ、「私たちは罪を犯しました」という文字を額に書いている俺氏でございますわよ。

くふふ、魔法文字だからそう簡単には取れねえぞ。何日しないと取れないかもだなぁ。

反省を噛み締めるといい。


「さてと……これからどうする?次の目的地に進むか?それとも、宿で休むか?」


「そのまま進みましょう。私の体力は余裕がありますし、宿で休めば高額を取られてしまいます。これ以上この街でお金を消費する訳にはいきませんから」


オーケーオーケー。次の目的地に進むのね。

ミカも女の子だから休みたいというと思ったけど、俺の目的中心なんだね。本当にいい子だわ、この子。


え?ナニナニ?俺をいつでも向かいに行けるようにサバイバルや戦闘の鍛錬を重ねていた?

いい子過ぎて泣きそう……。


***


ハイウェル帝国の領域を超え、中立都市イスカンダルへと向かっているナウである。

中立都市と帝国までの道のりは整備されているが、そこを行く訳にはいかない。

戦争中であるし、俺達は不法入国者だ。通ろうとしたところで敵対するのは目に見えている。


という訳で、俺とミカは整備されていない方の近道を行きます。

でも、この道は本当に危険な道だ。近道ってのは基本的に危険な道が多い。整備ができない程には、乱暴なマギリアルが多いって事でもあるからな。

俺とミカがある程度の実力は持っていても、全部相手するのはしんどい。


だからね。魔力噴射で飛んでいきます。


「嫌な気配がする。ゾワゾワとした、ドス黒い憎悪」


「ええ。上空を飛んでいるのにも関わらず、気配が伝わってきます。怨霊の祭宴と呼ばれるだけはあります」


この肌に伝わってくるヒリヒリとした感覚。戦闘狂なら喜ぶのだろうが、俺としては嫌悪しか湧かねえや。

さっさと抜けたいねえ。


できれば、どのマギリアルも相手せずに終わりたいところだ。


「ディニア様は悪運が強いようですね」


隣を飛んでいたミカの口からそんな言葉が漏れる。

悪運が強いってどういう事?俺の運勢は裏も表も普通だと思うんですけども。


というか、悪運の話がどうして…わぉ。

なんという事でしょう!二匹のマギリアルの登場により、空には嵐が。地上は各地から噴火が巻き起こっております。素晴らしい匠ですね!


…んな訳あるかぁ!!


言ってたそばから出会しやがって。こいつら何らかのセンサーが備わってんだろ。

あぁもう!ほんとクソ!一回騒ぎを起こしたらマギリアルは寄ってくる。

速攻で終わらせようにも、絶対に強力な能力を持っている。

ミカの言っていた悪運の意味がわかってきた。こりゃ悪運が強いわ。


「ふざけやがって。こっちはなぁ!やる事がいろいろあるんだよ!」


「ディニア様、私が火を」


「あぁ、頼む!」


いえーい!魔力魔法モリモリ普通タックル!


ふー、仮の名前がダサいのは置いておこう。

今はこの嵐ちゃんドラゴンくんだよな、うんうん。


"嵐の遠吠えライヴァル・ライフ"


さっそくの風魔法…この威力、この速度、この規模。俺と同じ風魔法と言うには違いすぎるな。

強化された風魔法、嵐魔法とでも言ったところか。

マギリアルってこういうところあるからな。災害規模なんて勘弁してほしいぜ。


"命の算術ライフ・カウント"


この規模なら、体力を削る魔法を使うしかなくなるからな。

これを使った後は疲れるんだよなあ。魔力と生気を混ぜて発動するから余計に。


「ドラゴンさん。いきなりは良くないと思うぜ?もう少し段階を踏んでだな」


"夜明けの嵐テンペスト・ザ・フール"


"拒まれた月の遺影デストロイ・ムーン"


使いたくないって言ってるのに…!こいつ、人の話を全く聞かないな。他のマギリアルを見てみろよ。俺が口を出させない勢いで話してたら従ってくれたぞ!

そんな事やってたら社会で生きていけないぞ。


あ、こんな怨霊マギリアルまみれの世界で暴れてるくらいには関係がないのか。ごめんね!


「攻撃、激しくなったな。思考があるとは思ったけど……ふふ。助かったよ」


爪、打撃、ブレス、タックル。スピードとパワーどっちもエグいけど、対応できない訳じゃない。

攻撃の仕方を工夫する技術はないし、魔法に近い位置関係のブレスは魔力の起こりが読みやすい。


加えてだ。竜としては幼いという考えからの煽りだったが、怒りに染めさせる事ができた。

これでより攻撃が実直になった。

その結果として軌道は予想しやすくなったが、行動するのは今じゃない。


避けて、避けて。全ての攻撃の間隔、硬直を全て頭に叩き込め。

マギリアルの中でトップレベルのドラゴンと言えども、生命体だ。完璧を持ち合わせている訳じゃぁねえ。

絶対どこかで隙が現れる。だから、俺はそれを狩るんだ。


「へッ。思ってたよりも早く晒してくれたな。ブレスのインターバルは8秒、尻尾の打撃は再度繰り出すのには4秒、タックルはこの体勢だと魔力装填が必須だ。そして、その魔力装填は大体12秒だ。てことで、爪を折らせてもらうぜ」


振るわれた爪を魔力で硬化させた腕で受け止め、爪に対して魔力を流す。

爪の中にある壊しやすい秘孔を突き、壊す。

痛めつける秘孔も同時に突いたから、相当痛むはず。


ほらきた。痛みにより物事が見えにくくなっている。隙を狩ろうとしている男の前で、怒りによる乱暴な攻撃を繰り返す。

感情的な攻撃は威力が上昇されるが、実直になる。ここまで読みやすくなると、まるでお遊びだな。


「風鳴り、轟き、頂点、天ゆえの風焔」


"風炎拳法、嵐塊らんかい"


[風魔法]と[火魔法]の複合拳法。膨大な魔力を入れたんだが…


「かったいなぁ」


吹き飛ぶだけかよ。

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