第22話 海鮮である

「キャァガン!」


「キュォォン!」


どうも、タコとイカの攻撃を避けまくっている俺氏でございますわよ。

しっかし……このマギリアルども、攻撃の威力と速度が半端ねえな。

超危険区域と言われるのに納得もんだ。


でも、それはマギリアルにしては。

あのクソ人形と比べたら、雲泥の差だ。

増援を呼ばないし、特殊な魔法は使わない。


そして……多く使用する打撃は利用しやすい。

足の面積が大きいが故、足場として活用できる。

幾つもある足?多すぎる手数?

はっ!ふざけろ。こんなのより、クソ人形の使う魔法光線の方がクソ厄介だったっての。


「まーずは……お前だぜ、おタコさん」


海上戦をする為に足に対して使用していた"泥沼の暗黒地獄を"解除し、新たな強化魔法を速攻で付与をする。

しかし、足の面全体ではない。

必要最低限、跳ぶ為に必要なつま先にしか施しはしない。


見せてやるぜ、最低限の魔力の使い方を。


「キャァガ!?」


「人が跳んだの、見た事ねえのか?結構あんぞ、人が跳ぶの」


俺が空中へ舞う瞬間、タコに動揺が浮かび、動きは鎖に繋がれたかのように止まる。

俺の手に鋭利な魔力が纏っている事にも気づいているだろう。それでも止まる。


本当助かったぜ。敵に塩を送ってくれてありがとう!


"ノワール流無手魔法、痛有地獄つうゆうじごく"


片目を潰して、と。できるならもう片方も狙いたいところだが……ダメだな。流石に攻撃準備をされてる。

触手と、墨か!


ひゅー、危なかったな。あの墨、毒性が含まれている。

俺の肉体面的にそこまで重要にはならないだろう。が、それでも毒状態になる事は避けたいからな。


ここには毒を解除できる聖女様はいらっしゃらないからねぇ。


てことで、これ以上墨を吐かれる前に潰す。


"ノワール流蹴術、跋扈ばっこ"


あのタコ、相当体力化け物だろ。

俺の蹴りを受けてもまだ海面から俺を見てやがる。

超危険区域のマギリアルは伊達じゃねぇってか?


《ディニア様、大丈夫ですか》


「大丈夫ではある。まあ、マギリアルの体力を削るのに困ってはいるんだが。あいつらタフ過ぎるぞ」


それにだ。ダメージを受けるたび、魔力が底上げされているように感じる。

マギリアルの中でも特異なモンか。


こいつぁ、放置しといたら不味そうだな。

長期戦も最善の選択肢なんかじゃない。

短期戦で高火力ブッパして消しとばす。それが一番の最適解だ。

しかし、それで邪魔となるのがイカだな。こいつ、さっきから俺の邪魔兼タコの援護ばかりしやがる。


タコを狙い始める前からずーっと。

真正面ばかりの戦闘をしていたから何だろうな。こういう邪魔されるの、あんまり得意じゃねえわ。


その不得意を得意に変える為、さっさとタコ倒すか。

イカはガン無視で良い。あいつらの戦闘で基軸となっているタコをぶっ飛ばす。


「キュォォォォォォン!」


「チッ!クソが!」


なんだ、あのイカの触手攻撃。援護にまわっていた時と全く違う。

初速から援護中の最高速度みたいな速度してる。

どれだけタコを殺されたくねえんだよ。


「キャァガ!」


そんなこんなで海に突き落とされまして。事前に俺が海に蹴り落としていたタコに拘束されるのは当然でして。

この拘束具合、解けない訳じゃない。でもなぁ、周りにある触手と海上にあるイカの触手。

多分だが、その二つで再度拘束される。


初めは楽の勝々だと思ったんだけどな。どうやら、現実はそう上手くいかないらしい。

拘束さえできればドデカい一撃を撃てるんだが…。

そう易々と隙を作ってくれる相手ではない。

くっそ、あのクソ人形で体力と魔力が削れてきたのが大きく関わってきたか。


《神々が世界を見る刹那、人は踊る。生まれ、育ち、苦しみ、成熟し、老骨と成り果て、席を見る事なく死する。人は舞う》


「命という限りをもって、踊り続ける。その証として、人は踊る。歴史の証明として、受け継がれた火を確かな物と思わせる為、人々は踊るのだ。故に、神楽である」


"神代証明、神楽かぐら"


ペンダントから声が聞こえ、海上からも最愛の人の声が聞こえる。

その声がした方向を見れば、俺が依頼を受ける少し前くらいにプレゼントをした衣服を着ているではあーりませんか。

あれ?ウチの婚約者、可愛すぎでは……??

惚気てもしょうがないと言われるぐらいの美貌は持ち合わせてるぞ。


きゃー!ミカちゃ、かーわいぃ!

流石俺氏の最愛の人!


そんなミカの登場でテンションを上げている訳ですけども。

ぷわ〜って見てたら赤熱の光線がタコを貫いてですね。

イカのやつ絶対驚いた顔してるやろ!


《「大丈夫ですか、ディニア様。あの海鮮赤顔マギリアルに拘束されていたようですが」》


前々から思ってたんだけどさ、ミカって俺以外だとまあまあ酷い事言うよね。別に良いんだけださ。

あと、ペンダント切れる?俺的にはミカの声が二重に聞こえて至福だけど、魔力消費が激しいから。


「も、申し訳ありません!ディニア様。最愛の伴侶に出会えたと思うと…」


「はいはい、ありがとうありがとう。その言葉は後で聞くから、今はイカ退治に協力してくれるかな」


あぶな。あのままだと長々と説明を聞くハメになってた。嫌って訳じゃないけど、今の状況で長い説明を聞くのはね。

ちょーっとメンタル的にキツいと言いますか。


「むー……分かりました。それでは素早く倒し、ディニア様と会話を交わすとしましょう」


そう言って聖属性の強化をモリモリに付与するミカさん。うん、普通に神聖ジジイより怖いよね、君。

まあ、それを言っている俺はその力を借りるのですけれど。


でもねぇ……少々オーバーキルなのでは。

そんなこんなでジト目で見ていたら、ミカは少し震えたのち、殴りに飛んで行った。

ボコスカ殴る姿は魔法を扱う聖女とは思えないな。まるで殴り聖女だ。


けど、隙は発生した。作っていただき、感謝感激雨霰かんしゃかんげきあめあられですわよ。


それでは御唱和しましょう。お前の援護うっゼェんだよ海鮮野郎!タレと炭持って出直してこい!


"結果外れの心拍者ハーピ・ライ・オントロジー"

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