第21話 お久々のミカである

どうも、ちょっと本気で聖剣ブッパしたら施設が崩れちゃって萎え萎えの俺氏だよ。

いやね、言い訳をさせて欲しいのよ。

俺氏を閉じ込めていた施設だからもうちょっと耐久性があると思ったんだけどね。思ったよりもなかったよね。


そんなこんなで……今俺は海を漂っていますよと。

施設があった場所は陸地だよ、陸地。

しーかし、何とビックリ。リーダーを倒した影響で発生した爆発で飛ばされましたと。


武闘を嗜むノワール家(本格的)の長子だったから泳げてるけど、普通の貴族なら溺れてるぞ。

気軽に泳げているのは裸だからってのもあるだろうけどな!


「そういえば……これだけは魔水の時から持ってたんだよな。俺の執念かな」


過ごしたのはたった数ヶ月だけど、俺の中ではびっしりとこびりついている思い出。

いや、この言い方は良くないな。これじゃあ悪い思い出だ。

言い換えるなら……一緒に居るだけで楽しかった数々、か?


俺が生きたのは10年だけど、その中でも確か煌びやかに輝く時間だった。

あのクソ人形リーダーの時はあぁ言ったけど、少し冷静になって思うと、不安だな。

ミカは俺を本当に待ってくれているのだろうか。他のところに嫁として行っているのではないか。


本当、反吐が出るな。

そんな最低な、愛した女を信じられない男の事が。

つくづく、主人公になれないって思うよ。

こういう時、主人公なら自信満々に言うのだろう。俺の女だからって。


婚約者になる為に脅迫文も送ったのに、これだけの事で俺は…!


「あー、ダメだな。こんなネガティブになっちゃ。目覚めたばかりで精神不安定時期か?ったく、笑えねえっての。ミカともう一度会った時、笑い合うのが俺の役目だ」


うむうむ。その為にも、俺は特種を沢山用意しておかなくては。

楽しみにしてろよ、ミカ。


《……さま、でぃ…さま、ディニア様!》


おろ?何故かペンダントからミカの声が聞こえるぞ?

確かこのペンダント、魔力切れしていたから伝達器具としての役割を失っていたはず。

今の俺に補充用の魔石を持っている訳もない。


だったらどうして……あぁ、俺の魔力か。

あの記録書にも書いてあったな。寝ている状態でも魔力を発していたとか何とか。

マギリアルとしか考えられないような魔力の性質。


そんな強烈過ぎる性質が故、本来気体に近しい魔力を特異へと押し上げたのか。

自分の事であるが、何とも悍ましい現象だ事。

本当にマギリアルに近づいてんだな。

世界っていうのは、随分怖い現象に満ち溢れているらしい。


っと、んな思考を巡らせている暇はなかったな。

最愛の人が焦りながら連絡してくれるんだから。


《ディニア様、なのですよね…?》


「そうだよ。悪いな、驚き過ぎて声が出せなかったんだ。短期用に作った魔道具だから充電切れてると思ったんだけど」


《確かに、以前までは充電切れの反応でした。てすが、今は強く感じます。一体どうして……いえ、今はディニア様ですね。ディニア様、今はどのような状況なのでしょうか。ディニア様が魔人になったと言われ、ディニア様の体を研究すると言っていた研究者は匙を投げ、ディニア様がいる場所は誰にも分からない状況が一年続きました》


ミカの言葉は驚きの言葉の連続だった。

俺が目覚めるまで推定一年かかったり、俺が何故か魔人と呼ばれていたり。

けど、その色々でも、俺の心はそれに染まらない。

俺が染まるのは、一人の少女。一年経っても、俺の事を想ってくれる人。一年前の約束を、未だに抱いてくれる人の事を。


暖かいって、こういう事を言うんだな。

幸せって、こういう時の為に使うもんなんだな。

信じて、信じて、信じて。その果てに心配をかけてくれるなんて、俺には勿体ないくらいだぜ。

……いや、ミカは俺だから着いてきてくれたんだよな。

これはミカに失礼か。


「ミカ、お前は最高のヒロインだよ。やっぱり、お前がいたら俺はどこまでも登っていける気がする」


《でぃ、ディニアさまぁ……ふきゅ〜》


うーむ、相も変わらずと言うべきか。

ミカの照れ屋さんは一年経っても健在という訳か。

まぁ、当たり前か。何回も試行錯誤して、その結果が何も変わらないってモノだし。

というか、むしろ酷くなってたんだよな。

倒れる率は増すばかりだった。


これじゃあ貴族としての繁殖の責務の時、どうなんのかな。

倒れられたら困るんだけど。


「まぁ、でも……一番困るのは今かな。ミカからの情報が途絶えたんじゃ、動きようがない」


***


《す、すみません。ディニア様にああ言われるとどうしても》


「そこに関しては良いんだけどさ、なんで復帰までに一日もかかっているんですかねぇ。前はもうちょっと少なかったろ」


《ディニア様と再度言葉を聞けたと思ってしまい……感激で普段よりも弱まっているのです》


最愛の人に向ける言葉じゃないんだろうけどさ、ちょっと引いた。

でも、今に始まった事じゃねえんだな、これが。

昔から段々とひどくなったんだわ。

好きと言う気持ちから始まり、徐々に盲信も追加され……いつの間にか崇拝もされたいた。

ディニア教なんてものも密かに作られるくらいだし。


「それで?今どういう感じなのさ」


《その点に関して色々説明したいところではあるのですが、今はディニア様の居場所の情報です。ディニア様が位置している地はハイタスター海。ゲルシア王国とハイウェル帝国の戦争地帯であり、強力なマギリアルが住まう超危険区域です》


何とも面倒臭いとこに飛んだものだ。帰ってくるの、想像以上に大変そうだ。

マギリアルに戦争、巻き込まれないといいけどなあ。


とまぁ、そんな事を言っていれば現れましたよ。直径十二メートルはあるイカとタコが。

早速か。巻き込まれないといいなって言ったばっかりなんだが。

マギリアルが蔓延るこの地では無理だろうなと感じていたが、そこまで非情に裏切らなくても良いだろ。


「だが、出会ったモンはしゃあねえ。腹ん中に入れてやるよ」

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