第19話 記録書である
《巨大なマギリアル・ディニアの記録書》
・王城で暴れた不届者のディニアと言われる男の体が届いた。
どうやらマギリアルの要素が組み込まれているらしく、暴走をしたらしい。
その父親に聞いても、マギリアルの遺伝子が組み込まれているのは知らないようだ。
ならば、騙され、手術で組み込まれた説が有効だろう。
もしそうであるのなら、このディニアという少年はなんと可哀想な事か。
・ウチの遺伝子を解析する魔道具から報告が届いた。
どうやら、遺伝子に組み込まれているのは間違いないらしい。
この幼子にマギリアルの手術をさせるとは……相当悪どい者らしい。
研究者の風上にも置けないやつだ。
この少年はあの論文を書いた少年だと言うし、同じ研究者として怒りを抱いてしまう。
絶対に見つけ出し、ぶちのめしてやる。
・新しい発見である。この少年は寝ている状態でも魔力を発している。
マギリアルとしての遺伝子が移植されていると言えども、この状態は異常事態だ。
人間は意識外で魔力を発さない。
発せるのはマギリアルのみ。
しかし、それではこの少年がマギリアルと言っているようなものではないか。
この子は人間だ。その証明の為、私は研究を続けるつもりだ。
そして、この少年が目覚めた時、居心地の良い環境にする為に。
・研究を始めてから三ヶ月が経った。
それに伴い、この少年に関する情報が浮き上がってきた。
それは人間にはあり得ない異常性、そして乖離性だ。
生命を持つ人間と言うには、魔力と魂の位置が少々おかしな場所に設置されている。
それだけではない。濃さ、純度。その全てが異次元と言えるレベルだ。
私は何ヶ月か前に人間とノートに書いた。
けれど、この子が人間と言えるか、私は疑ってきてしまう。
私の研究は、正しいのだろうか。
・少年が発する魔力について。
魔道具すらも単体で動かせるエネルギーである事が判明した。
これを上手く利用さえすれば、軍事利用すらも可能である。
もしそうであれば、この国は最強の軍事国家として名を轟かせる事だろう。
この者は人間ではない。我が国に繁栄という道を歩かせる道具である!
・違う!違う違う違う!
こいつは道具なんかじゃない!
人間とは永遠に相容れない力を持つ真性の化け物だ!
いやだ。こんな化け物を研究するなんて、もう御免だ!
***
最初はよく記入をされている。
だけど、日にちが経つにつれ、どんどん記録の仕方が雑になっている。
これだけじゃあ俺を把握できねぇが、相当やばい生命体となったのは間違いなさそうだ。
無意識に人を魅了し、人を恐怖させる。
まるで魅了系や恐怖系の特性を持ったマギリアルだな。
俺があの時のあの空間で何をしたかは知らんが、俺の深淵を引き起こしたのは間違いなさそうだ。
ただの依頼が随分と大ごとになったもんだ。
これじゃあノワール家に帰るのも一苦労になりそう。
ひえー、やだやだ。
《最奥に保管されていたマギリアル・ディニアが脱走しました。魔道機械兵器の配置…及び、戦える職員は全員向かってください》
まぁ、そうだろうな。
あの記録書から俺の危険度は分かる。
俺は生かしちゃいけないタイプの生命体なんだろう。
それでも殺さないのは……慈悲かな?
っと、んな事考えてる暇はないな。
さっさと逃げないと。ロボットがこの部屋に来る前に。
魔力と体力は万全だ。けど、大軍を相手にして余裕に切り抜けるとは思えない。
さっさと逃げないとな。
「おーまいがー、ってやつ?クソいんじゃん」
部屋の外に出ようと扉を開けたら、機械兵器さん達がぞろぞろと出現しやがった。
相当俺が厄介で、相当俺を逃したくないんだろうな。
そんなに嫌なら……真正面からぶつかってやるよ。
そこまで敵対視されているのに、当の本人が逃げるのはちょっとムカつく。
俺は戦闘が好きって訳じゃない。けど、最強になりたいと思っていて、闘志を受け流すのは違うじゃねえか。
「良いぜ、相手してやんよ」
それにだ。逃げたとしても、めっちゃめちゃに追いかけてくる。
ここまでの数相手に逃げ通すのは難しい。
だったら最初からぶつかって倒す方が良い。
そうと決めたら、さっさと倒しましょうかね。
ノワール流剣術が使えないから、今の俺に広範囲技は無理だ。
魔法を使っても良いが、この施設の広さじゃ崩れる危険性がある。
とりまは無手で戦うとして……攻撃方法は突っ込むだけか?
随分と原始的じゃねえか。
まぁ、こいつら相手だったらそれで十分か?
こちらに向かう速度や認識する速度から算出された攻撃速度。
それよりも速くぶちのめせば良いだけだし。
少し強めの魔力を纏って、パーンチ!
そうして腹部に打撃を入れられた機械兵器は飛んでいき、10体を巻き添えにしてくれた。
一発打っただけでこれか。思ったより脆いな。
もう少し威力を弱めた方が魔力消費は少なくなるか。
「まぁ、でも、ドミノみたいで面白いな」
「命令、ディニア、命は問わない、捕えろ」
人工的な冷たい音声が廊下に響いた後、機械兵器達からの魔法光線が襲いかかる。
一発一発は大した事ない。
個別に撃たれたら、余裕で避けられる程度には質のない技。
でも、数が多すぎる!
どんなに質の悪い魔法でも、何百発と物量で叩きこまれちゃ、対応できないんだよ。
大規模な魔法を使えんなら話は変わるが、この場所で使えるはずもない。
「この程度なら苦戦はするけど、確定で切り抜けられる」なんて思っていた自分をぶん殴りたい気分だぜ。
全然確定じゃねぇ。
それどころか、本気でやらなきゃこっちの命がぶっ潰される。
「あぁ、やっぱり…物量戦ってクソだわ」
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