第18話 お断りである
「息災か?のぅ、ディニア」
「はっ!定期的に頂戴したお蔭様で、元気に過ごせています」
「そうか」
な、慣れねえ!
親父の付き添いで謁見した事はあるが、この威圧感…得体の知れないゾワゾワを感じてしまう。
戦闘では永遠になれない圧って感じだ。
「お主は儂の愛娘を守っててくれた。その褒美に何が欲しい。名誉騎士の地位か?古代の魔導書か?莫大な財産か?」
……まあ、想像はしていた。
ちょっとしか話した事はないが、今代の王様は家族思い。
それに加えて、もしかしたら弱みとなっていたかもしれない。
そりゃあ褒美を与えようとするよねって。
助けてもらって何もしないってのはまずい。
そういうあっちの面子もあるんだろう……でもさ、俺が受け取るわけにはいかないのよ。
名誉騎士なんて、俺には似合わない。
自分だけ助かろうとして、命乞いを選択肢に入れ……思いとどめるまで実行しようとしていた俺には似合わないんだよ。
「バカ真面目じゃん」
このバカルカ!なに王様の目の前で不用意な発言してるんだよ!
今の王様は寛容だからいいけど、一昔前の王様だったら斬首刑に処されていたぞ。
「そうか。では…お主が成長した時に今回の褒美もくれてやるとしよう
ふー。王様が理解のある人で助かった。
王様も元武人であるから、分かってくれると思ったんだ。
自分が納得していない功績に褒美を重ねられるのは嫌悪の対象である、と。
まあ、何はともあれ。
王女様誘拐事件はこれにて解決という事で。
帰ったらミカと思う存分にイチャつこうっと。
「ふざけるなぁ!」
終わろうとしていた玉座の間に、怒号が突然として響き渡る。
少し前に聞いた覚えのある声に振り向けば、ズブズブの騎士さんが立っていた。
こいつ、確か拘束されていたはず。
王に対しての虚偽の報告をしようとしていた罪で。
何でこいつが…ぁ、ナイフ投げてきた。
ナイフ投げてきた!?今の俺じゃ、ろくに魔力なんて練れない。
それに、このナイフ、神聖が込められている。
それも、あの神聖ジジイと同じような、上限をぶち壊したかのようなタイプ。
これを受けたら俺の体はどうなるんだ。
分からない。分かりたくはない。
これを刺されれば、俺はきっと俺じゃなくなる。
きっと、自我をなくして、ただ暴れ続ける化け物となる。
そうならない為にも、これは避けなくては。
「はは、はっはっは!ナイフについてある魔法札が見えないのか!?このナイフはなぁ、目的のものに向かって追尾をするんだよ!」
必死に避けても、ナイフは追ってくる。
神聖ジジイの杖に受けた脇腹を狙ってくる。
_避けられない
その思考を抱いた時、脇腹にナイフが突き刺さる。
それによって、変貌が体内から感じられる。
細胞の一つ一つが、作り変わる気配を感じる。
それは痛かった。意識を落とすという、楽な道を選ぶくらいには痛かった。
_くそったれ、じゃねぇか
『神聖にして秩序のマギリアル・テミス=ディーピング、降臨いたします』
***
眠っている、のか?
瞼が開かない。視界はずっと暗いままで、状況の把握ができない。
というか、これ本当に眠っているだけなのか?
まるで強引に瞼を押さえられている感じなんだが。
こうなったら魔力で解決するしかない。
瞼を押さえている意味不明な物体を破壊できるかどうか。
何故こうなったかは知らないが、意識を失う前は魔力操作が怪しかったから、使えるかどうかは分からんけど。
"
うむ、問題なく魔法が使えたな。
滞りなく発動できたのを見るに、意識を失ってから相当な時間が経ったと見るべきか。
いや、それよりもまずは……この光景か。
何でかは知らんが、魔法生命体や魔法研究物が保管される魔水の中にいる。
俺はいつから研究対象になったのやら。
あれ?どうして俺は魔水の中で呼吸ができている?
本来なら目が覚める前に窒息死しているはずだろう。
俺は俺じゃなくなる。化け物になってしまう。
確かにあの時、俺はそう思った。だからって本当に化け物になったのか?
はは、考えたくねえや。
だから、今は考えをやめるとしよう。
さっさとこの牢屋から脱出するとしましょうかね。
「っぺ。俺が今はどういう扱いかは知らんが、相当まずいのは間違いなさそうだな」
研究対象なのにも間違いはないだろう。
色々と俺の名前が書かれているノートが何個かある。
それと同時に、魔法を撮られたであろう、魔水に浸かっている俺の画像がナイフに突き刺されている。
結構嫌われているらしい。
俺は気を失ってから、どんな悪行を犯したのだか。
ここの部屋にそれらしいのが書かれている書、置いていないかな。
俺が研究対象なら、流石に記されているだろ。
というか、詳細が記されていない研究対象なんて危険すぎるぞ。
「《巨大なマギリアル・ディニアの記録書》、ねぇ。俺にとっちゃあ酷い代物だが、これを記した者は必死だったんだろうな。ったく、過去の俺はなにをしたのやら」
この埃の量、だいぶ見られてないな。
この研究所が必要なくなったか、俺に興味がなくなったか。
それとも、ここに立ち寄れなくなったか。
全く、考えても分からない事ばっかりじゃねぇか。
世界ってのは理不尽だねぇ。
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