第16話 強い爺である

とは言ったものの、この神聖ジジイ、狩れる隙が全くねえぞ。

あるように見える。だけど、ただそう見えるだけだ。

親父とかと同じ感じだ。飢えた獣を誘い、獣が飛びついた瞬間に叩き潰す。

肉片から骨の髄まで。全てが塵芥となって消えるレベルで。


下手にノワール流を撃っても狩られるだけ。

万事急須、ってやつ?


「でも、何もしないは無しだよなぁ!」


本来援護の為の魔法だったけど、好都合。

通用するとは思わないが、ちょっと障害物ぐらいにはなんだろ。

これすらも容易にぶち壊したらガチモンの化け物だぞ。


まあ、んな事はありえません。

流石にそれは信じられんからな。神話の化け物とか、そういうのじゃあるまいし。

俺はさっさとノワール流双剣術を用意しましょうかね。


「心意気で突破できる程に儂は甘くない。さぁきも言うたと思うたが?」


マジかよ、魔力だけで魔法を消し飛ばしやがった。

魔法使いとして相当な域に到達していると感じていたが、ここまでとは。


これは勝負だな。俺のノワール流が先に放たれるか、神聖ジジイの方が早いか。

さぁて、噛み締めろよ、ジジイ。

俺は早撃ちには自信があるんだ。


俺はあと一秒で発動可能だ。

神聖ジジイ、お前はどうくる?余程の速度じゃなけりゃ、今回の早撃ちに勝つ事は不可能だぞ。


"巡るは祝福、駆けるは怨嗟ホーレイ・ディニアシタブロ"


は?はぁぁぁ!?

ざっけんな、ざっけんなこの神聖ジジイ!

早撃ち勝負でノーモーションの発動は反則だろうがヨォ!


「このっ!」


でもさ、ノーモーション発動の魔法でも、対応できるモノはできるんだ。


普通のだったら。


今回の、色々と組み合わさってできている。

連発攻撃と範囲攻撃。それが幾つも入り混じり、適応の形として存在している。

この神聖ジジイ、聖属性だけかと思いきや、魔法にも相当精通してやがる。

魔法を研究している者として、少々恥ずかしいねえ。


「逃げ足が速いやつよのぉ。少しは向かえんか?」


「あっそ。だったら、お望み通り…」


_向かってやるよ!


"ノワール流双剣術、裏乖りかい"


白滑とは、片手剣を用いる空間を歪ませる剣術の事。

でだ。俺の持っている武器はどれか?片手剣と短剣。

本来白滑を使用する上で必要な武器よりも一つ多い。


だからだろうな。白滑の鐵数が圧倒的に多くなる。

多数を滑らせる。それだけでも俺が動きやすくなってくる。


さぁ、行け行け!膨大な滑り攻撃を用いて、隙を作らせるんだ。


「くっ!貴様の術、随分と変則的やのぅ。元となったの白滑を大きく変えとる。何をしたか、聞かせてはくれんか?」


え?そうなんですか?

…よく考えれば、この技、俺が想定した方向とは別に行ってる。

把握できないってのは難儀だが、変則的はあっちにも対応できない。

今回に関しては、大当たりだな。


「言うとでも?」


"ノワール流双剣術、真月しんげつ"


「やろうな」


こいつ、やっぱり化け物だろ。

体が滑っているタイミングでノワール流の技を叩き込んだ。

最善だと思っていたが、この神聖ジジイの前だと無駄に変わるらしい。


だからって絶望はできねえんだよ。

諦めたら親父に叱られちまうし、ミカに顔向ける顔がなくなっちまう。


「技術は中々。素の力も相当なモノ。しかし、しかしだ。儂には到底届かん」


拮抗していた。拮抗していたと思っていた。

けれど、簡単に葬られた。拮抗した状態は、一つの杖によって消え去ったのだ。


探検と片手剣が弾かれた。

この神聖ジジイのスピードなら、この無防備を攻撃するのは容易い。そして、致命傷も。

オート魔力防御は攻撃に回したし、あっても多分貫通される。


俺の魔法構築速度と発動速度じゃ、今から練っても間に合わない。

でも、あの神聖ジジイからは聖属性がある!

ミカに協力してもらって獲得した[聖属性耐性Ⅳ]ならある程度経験できるはずだ。


そして、今からでも操作可能な魔力を[聖属性耐性Ⅳ]に集め、受ける一瞬のみに[聖属性耐性Ⅴ]まで擬似的に底上げさせる。

これなら、神聖ジジイの神聖系スキルや魔法がⅩじゃない限り、全てを受ける事はない!


「え……?」


杖が俺の腹部を…。

ぇ、ぁ、痛い、いたいいたい…!

刺された部位から神聖が広がっていき、体が徐々に壊れていくのが感じれる。

死の恐怖ってもんなのかな。

体全身にゾワゾワとした感触が浮かび上がり、漠然とした恐怖が襲いかかってくる。


「残念だった。儂の[神聖攻撃]のスキルレベルは…ⅩⅤ15。理解したかえ?貴様が儂に勝てない事を」


体が震える。手が目の前の圧倒的個を目の前にして、震えてしまう。

反撃の一手なんて、打てるはずがない。

頭の中に「絶望」と言う単語が複数回出て、思考までそれにまで染まってしまう。


歯がガチガチと鳴り、諦念が浮かぶ。

体は用意している。絶対の敗北を用意しているのだ。

降参をしたらこの者は助けてくれるのだろうか。王女を渡したら俺だけでも…。


_何やろうとしんだ、俺は


自分だけでも助けてくれるダァ?

それじゃあ今も戦ってるアイツらはどうだ?俺が戦っていると、このジジイを足止めしてくれると信じてくれるアイツらは。


親父とニケは多分…許してくれる。

親父は俺を大切に思っているし、ニケも俺を向かわせるのに抵抗があると知っている。

もちろんミカも、しょうがなかったって、慰めてくれるだろう。


けど!俺は、俺自身はどうなんだ!

最強になりたいっていう夢を諦めて、自分が歩むべき道からも逃げて。

それで俺は前を向いて歩けるか?


何より…ミカと合わせる顔はあるのか。


はは……ないに決まってんだろッ!


「神聖ジジイ!お前の[神聖攻撃]ってスキル、ⅩⅤらしいな!だったら、その力を利用された攻撃って、相当なものになるよなぁ!」


「何をするつもりだ…!」


急いで杖を抜こうとするが、無駄だ。

知ってるはずだろ。因縁があったってんなら、ノワール家の面倒臭さを。

ある一つのためなら、自分の命だろうと何だろうと…全てを利用する。


俺のその対象がミカだって話だ。


"ノワール流無手魔法剣術、曹操爆蘭そうそうばくらん"

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る