第14話 夜食である
「それでは、そろそろ食事をしようか。干し肉とエネルギーポーションは持っているか?」
「あの舌に残る嫌なポーションね。あのゾワゾワとした感触、どうしても好きになれないのよね」
「そうか?俺は好きだぞ?魔力の後味がして」
エネルギーポーションと干し肉を出しながら言葉を吐けば、四人から思いっきり引かれた俺氏である。
そりゃ、まあ、うん。予想はしていたよ。親父からもニケからも好きって言ったら引かれたし。
でもさ、天才の魔法使いなら分かってくれると思ったんだけどな。
「ユイラなら分かってくれるかと思ったんだけど」
「うっ!グリくんの視線が刺さっちゃうよ!めっちゃ罪悪感が!」
「グリの視線は分からないでしょう。ユイラ、適当言わないの」
「でも罪悪感は感じてるんだよ!」
どうやら言葉にも感情が出ていたらしい。
皆に理解される好みではないと理解してはいるが、誰にも肯定されないのは辛いものがある。
貴族としての仮面は貼れるんだけど…どうしてもこれだけはなぁ。
「わ、私はユイラ!すーぱーえりーとのエルフ魔法使い。そんな私が恐る事なんて…多分ない!」
ユイラは自分の名前を叫んだ後、エネルギーポーションを飲んだ。一気飲みをした。
…、……!?ユイラさん、あーたさっきまで引いてる側だったでしょう!?
それなのに飲むなんて。
ぺっしなさい!俺からしたら天国だけど、嫌いな人からしたら最悪だぞ。
いや、言ってもダメか。ユイラは仲間といる間、できる限りとして仲良くできるように寄り添っている。
これも、理解しようとしてだ。
本当、良い人が過ぎるぜ、ユイラ。
「く、くふ。これが魔力の味なんだね、グリくん。けっ、結構濃いんだね!」
「無理して気を出そうしてなくて良い。これ、苦手な人には相当辛いはずだ。それでも頑張って俺を理解しようとしてくれた。すっごく嬉しい」
口直しとして活性用ポーション(味良し、効度弱)を渡しつつ、感謝の言葉を送る。
この趣味、この好み。今まで理解しようとしてくれた人はミカだけ。
だから、ほんっとうに嬉しいんだよなぁ。
王女様の依頼が来て不満だったけど……来てくれて正解だった。
ミカ以外にも、こんなにも優しい人がいると知る事ができた。
くふふ、この依頼、最高かもしれない。
「ふー、助かったぁ。ありがとね!グリくん!」
「助かったなんて言わなくて良い。そもそもは俺が招いたようなものだ。こちらこそ、すまん」
いやマジで。俺が余計な事言ったからユイラは大変な目にあった訳で。
俺ってポンコツ発言メーカーなんですかねぇ。
「いやいやいや!私がしたのが悪いんだよ!?」
「いや、それは……」
「あぁもう!うるさいよ二人とも!どちらとも悪くないって事で良いじゃん。そんな話題よりも、恋バナしよ!」
ルカはパンパンと手を鳴らした後にダニスへと視線を寄せる。
うーむ……恋愛系統の話題になると、このパーティーではダニスが標的になるのか。
下手に話題を出すと喰い物なされてしまうかもしれない。ワイは気をつけるとしよう。
あれ?でも毎日夜には連絡をしてくれとミカから言われてたような……終わりやんけ。
はー、オワオワ。冒険者って話題にできる事はとことん話題にするからな。
どうせ俺のも話題に出されるんや。
……干し肉うま。
やっぱね、味濃いって正義だわ。貴族の繊細な料理は合わないんだよな。
ほんと、俺の舌は庶民気質だわ。
「はいはい、渋ってないで早く出してね。グリくんはまだ入ったばかりなんだから、リーダーの事情は知らないでしょ」
「くそっ…グリが居るからいつものようにはならないと思っていたのに」
「それはアタイたちを甘く見過ぎだと思うの」
セリフだけ見れば格好いいな。セリフだけ見れば。
そのシーンの詳細が他人のために恋を暴かそうとしているってのが台無しになるけど。
いつもの光景なんだろが、ダニスは大変だなあ。
リーダーとしての指揮に弄られ係。俺には無理な役職だ。
バレるまで静かにしていよう。…ワンチャンバレないかも…?
もしかしたらだけど、このままダニスが生贄になってくれれば。
頼むぞ、ダニス。俺のために死んでくれ。
「よく、よく考えてくれ。いつも同じ話の俺と、新しい話を持っているかもしれないグリ。どちらが良い?」
この、この!ダニスの馬鹿野郎!
生贄になってくれると思った瞬間に俺を売りやがって。
お前に人の心はないのか!
「ねえねえねえ!グリくんって好きな人とかいるの?」
クソッタレがヨォ!
ほらみろ!恋バナの矛先が俺に向いちまったじゃねえか!
こうなったら最後、俺に取り返す術はない。
オワタである。
「まあ、いる。故郷に両思いの人がいて、婚約者の立場を握った」
「婚約者の立場を握った?なったなら分かるが、握ったって」
「俺も婚約者も、どっちも偉い立場なんだ。そして、長年啀み合っている。それを頑張って婚約者の立場にまで上り詰めた。今回は、ニケに頼まれたから故郷を離れて来ただけだ」
故郷の件は嘘である。
しかし、ノワール家と神聖国家エクスプリズムが啀み合っていたのは事実だ。
それのせいで婚約者脅迫事件まで到達するの、どんなに大変だった事か。
母方の爺様が神聖国家の関係者じゃなきゃもっと掛かっていただろうな。
「離れて寂しくはないのかしら。グリ、あなた見るに、相当なものを抱いているようだけど」
「毎夜に連絡する事になっているからな。寂しさはあんまり」
「「「へぇ…」」」
はっ!しまった!
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