第13話 馬車移動である

どうも、自己紹介と少しの会話をしていたら守護すべき馬車が到着し、後ろの馬車からそれを見守っている俺氏でございますよ。

今の馬車の順番としては、騎士→王女様→俺達冒険者になってるな。


「この順番、王女に格好の良いところを見せたいという騎士達のプライドが見える気がするわ」


「そりゃそうだろ。この騎士を束ねる隊長さんは今のラングリニス王国と結構ズブズブなんだ。とは言っても、一部だがな。王を傀儡にし、自分達の思考に合わせて動かしたい。そんな考えを持つ奴らのな。そのため、あの騎士は王女様と結婚するか、王子様のお気に入りになる必要があるが……一番王位継承権が高い王女様は強き者を好いている」


爵位的な意味では公爵家よりも下であるが、影響力では公爵家以上の我が家。

それに漬け込みたい、甘い蜜を吸いたいと考えるバカは無数にいる訳で。

だからなんだよな。精通したくもない情報に俺が精通している訳は。


こっちはただ魔法の研究をしたい研究畑の人間だって言ってるのに……あっちはそれ関係なく誘ってくるし。

ほんまウザったいたらありゃしない。

今回の王女様だって、ミカが関わってないなら俺は関わらねえよ。


「グリくんさぁ……なんでそんなに知ってる訳?アタイ達も冒険者にしては貴族事情詳しいけど、そこまでじゃないよ」


「……」


うーむうむうむ、間違いなくやらかしましたな。

いやね?違うのよ。

グランと話すみたく貴族の事を話してたらね、グランじゃなかったのよ。


あれ?これ俺がアホやらかしたっていうのは変わらなくね?


「グリくんってポンコツなんだね!」


「やめなさい、ユイラ。グリだって頑張ってるのよ…‥多分」


サポートに回ってくれるのは嬉しいけどさ、途中で自信が無くなるのは辞めましょう。

俺氏が泣きたくなります。いやマジで。


くっそ。さっきまで意味深ムープを展開できていたのに、これじゃあ台無しではないか。

自己紹介の時と遅刻してきた時と今を見比べてみよう。


……遅刻してきた時しか意味深ムーブできてないじゃん。


ど、どうにかして取り返さなければ。

冒険者に弱みを握られってのは、俺順位として二番目にやばいんだから!

ちなまに一番は魔法使いに弱みを握られるだな。

アイツら本当に陰湿だからさ…一度握ったら離さないんだ。


「何故そこまで言われなければならん。俺は問題ないと判断をしたから話したのみだ。沈黙をしたのは特に理由はない」


「分かった。アタイはそれで納得をするよ」


「私もそれを信じるよ!」


「私も。あなたの言葉、信じましょう」


「情報通なんだな、お前」


な、納得をしたのなら…微笑ましいものを見るような視線を向けるな!


***


そんなどうでも良い会話を重ねまして。

気付いたら夜でした。流石に初日から襲撃はなかったな。

このまま平穏だったら俺が狂喜乱舞するんですがねぇ。


「ねぇねぇ!グリくん!君って疲れないの?」


「おい、ユイラ。強い冒険者にはスキルがある。当たり前の事だ。それを聞かないのは暗黙のルールだぞ」


「だってだって!気になるじゃん!魔力探知を一日中してても疲れないなんて!」


「…ゆっちゃん。それ、本当?」


初めて見た時、ユイラは優秀な魔法使いだと思った。

膨大な魔力に莫大な術の数々。人間とエルフを比べるのは酷だろうが、それでも普通の魔法使いと比べると一段上に登っている。


それが、最初見た時の俺の評価だった。

今と比べて、ようやく分かる。その評価が間違いだったと。

ユイラちゃん、俺が想像してたよりも化け物だわ。


俺氏、頑張って魔力探知を薄くして、誰にも気づかれないようにしたんだけどな。

魔法の天才って、やっぱ異次元だ。

俺が試行錯誤して編み出した技術を当然のごとく見破ってくる。

ほんと、クソッタレだ。


「アタイ、気づかなかった。そこそこ鋭いつもりなんだけど」


「自信を失わなくて良い。俺の用いた魔力探知は極限まで薄くしている。故に、魔力の感覚が鋭すぎる者以外には気づかない」


「なるほど!この魔力探知は瀬戸際を攻めているんだね!使える範囲と、気づかれない範囲。見事な合わさり具合だね。すごい努力が感じられるよ。さすが!」


「あぁ、そうだよ…」


アンタら天才の為に、拮抗できる為にした努力だよ。

でも、足りないか。


本当なら、打ちひしがれるところなんだろうな。

でもさ、魔法使いとしての心かな。上を見たら、心が燃えるんだ。

努力しても足りないっていう現状が、どうしようもないくらいに夢への渇望を大きくさせる。


「でも、こっからだ。ここで、俺の努力は終わらない。もっと、もっと磨いてやる」


「努力家なんだね!」


「違う。俺は努力家なんじゃない。魔法を、武器を磨くのが好きなんだ。全力で磨いて、全力で走るのがな」


そして、格上に挑戦すんのもな。

覚悟しやがれ。絶対に、絶対にお前ら天才を乗り越えてやんよ!


「なるほど、熱い男だな。私は、そういう男が大好きだ。期待しているぞ、グリ」


「ん?ああ、期待しておいてくれ」


むふふふん!リオにも俺の熱意が伝わったか。

グランやミカにも言える事だが、素直に応援できる奴は良いやつだ。

言葉の響き的に危ない気配がしないでもないが…まあ、うん。気のせいだ。

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