第12話 任務である

どうも、親父からもらったお小遣いで任務に使うであろう片手剣と短剣をもらった俺氏でございますわよ。

いつも使ってる木刀とは違った重さをしているけど、まだ持てる範囲だ。

日頃からの筋トレが力になってんすかね。

ならヨキヨキ。


「すまないな、待たせた」


ちなみにだが、俺は今絶賛遅刻中でございまする。

いやさー、グランと親父の野郎、心配してかける言葉が長いんだよ。

恋仲の俺とミカを見習いなさいよ。

「帰ってきてくださいね」「あぁ、分かってる。絶対に帰ってくるよ、約束だ」「絶対ですか、分かりました。信じます。あなたは約束を守る男ですから」とかしか交わしてないぞ。


「おい、ギルド長!!アンタ、正気か!?命のかかった重要な任務にガキを連れて行くなんて!」


うん、それは俺も完全同意する。

切迫つまる状況に……なるかもしれない。

そんな任務に子供を連れて行けるほど、世界は甘くできていない。

俺がこの人の立場ならそうしたよ。


任務の遂行も、命の責任も。

全てかかるかもしれないから。


でもさ、この任務は俺が必要なのよ。

多分聖属性の耐性を持ってんの、俺しか居ねえし。

だから、ちょっと手荒な方法で納得してもらわなきゃだ。


"青く澄んだ拘束具ブルーチェーン"


「これは…!」


「すまんが、これ以上放っておくと話が飛んでいきそうなんで、強引に出させてもらった。さて、男の人や。俺は幼く見えるだろうが、種族として理由があるのだ」


もちろんブラフ。

俺は純血の純人間さんだぜ。

でもさぁ……仕方ないんだよ。こんぐらいでしかこの人納得しないでしょ。


「それは嘘か?」


「ふっ、疑うのなら、その目で確かめてみろ。この俺の魔力をな」


「そうか……そこまで言うのなら信じてみよう」


ありがとうございます信じてくれて!

このハッタリが効かなかったらマジでまずかった。

ギルド長権限で着いて行けるだろうけど、チームとしての仲が最悪になるところだった。


この人が話を聞いてくれるタイプで良かった。

そうじゃなきゃ、ちょっと前からゲームオーバーだったぜ。


「さてさて!話も整った事だし、任務の話でもしようかな!改めて自己紹介をしようか。僕は猫獣人のニケ!ただの可愛い猫、だにゃん!」


「アンタの名前なんかここに居る全員知ってんだよ!」


俺、ギルド長の名前、知らなかったんだよな。

自己紹介の時も「僕はギルド長をやってるんだ!」しか言ってねえし。

…よくよく考えれば、最初から信用してないんだな、コイツ。


***


「任務内容はこれぐらいかな。報酬金額にも納得してもらえたみたいだし、君達は君達で自己紹介をしてね!」


そうして俺達は執務室を追い出されましたと。

任務までの待機時間、俺は何をすれば良いのやら。

ニケの言う通りに自己紹介をしろってか?

バカ野郎、俺は基本的にコミュニュケーションが苦手なんだよ。


貴族としての会話なら仮面被ってりゃできる。

けど、けどな。通常の会話なんてどうすれば良いんだ。それも初対面の相手と!

ミカとできてだろって?無茶言うな!

あれ割と奇跡なんだぞ!


「ねぇねぇ!ギルド長に言われたみたく、自己紹介をしなーい?」


「それは賛成ね。これから一緒に戦う人の名前も知りませんでしたなんて、華麗な連携ができる訳ないもの」


「ゆっちゃんとりっちゃんに賛成!アタイも名前知らない人と背中合わせたくないかも!てことで自己紹介!アタイはルカ!テイマー兼シーフだよ!」


なんか転々拍子で話が進んでくなぁ。

そりゃ俺だって自己紹介もせず一緒に戦うなんてしたくないけど。


「私はユイラって言うの!灰色のフードくん、よろしくねー!」


灰色のフードくんって何よ。

確かに俺の見た目やけどさ。そのまんまで言うヤツ中々いなくね?


「私は華麗なる武道家……を目指しているリオよ。灰色くん、よろしく頼むわ」


自己紹介していないからしょうがないんだよ?

しょうがないんだけどさ、もうちょっと俺に対してのネームを頑張ろうぜ。

流石にそんなんは悲しいのですけれども。


「俺はダニス。このパーティのリーダーをしている。よろしく頼む、灰色」


灰色灰色灰色……お前らそれの他に俺に対する語彙はないんですか?

外見的特徴で呼ぶのは悪くないとは思う。

でもね、外見的特徴でやばすぎだと思うのでさ。


てか、これで全員自己紹介終わったよな。

名前を知られたら命を刈り取られるかもしれないってのに、迂闊すぎるぜ。


「本名を言うつもりはない。だから、これは偽名だ。グリと呼べ」


「安直だな」


「安直だね!」


「少しは考えたらどうなんだ」


「アタイでももう少し考えるかな」


うっさいうっさい!

灰色くんとか灰色やら言いまくっていたお前らには言われたくねえよ!


そもそも、偽名だって言ってるだろ。

なんでそんな責められなきゃならん。


「いや、創作物を書く時にそんなダサい名前を書かれたらこっちが恥ずかしいんだよ」


「なんで創作物を書く前提なんだ……。あと、グリは洒落た名前だろう」


少しため息混じりの言葉を吐けば、この場にいる全員からため息を吐かれる。

なんでだよ!グリは比較的洒落た名前だろうが!


「一般的過ぎて」


「洒落た名前って言われてもね……灰色を言い換えただけなのよ」


「アタイはもうちょっと捻った方が良いと思うな」


「話をまとめると……分かったのはグリのネーミングセンスがないって事だね!」


解せぬ。本当に解せぬ。

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