第10話 怪しい者である
「けふっ、けほっ」
どうも、実の父親から鍛錬と称してボッコボコにされている俺氏である。
こっちは最近騎士達の剣筋が見えてきたって段階だってのに、親父はまあまあ本気でぶつかってきやがる。
血の繋がった子供に対してやる所業じゃねえな。
まあ、親父は愛故にぶつかってきてんだろうが。
……そろそろ立ち上がるか。
このままじゃ親父の我慢が切れて叩かれちまう。
この鬼畜親父に勝てる気はしないが、全力で戦わなければ怒られてしまう。
木剣を持ち、構えるのは脇構え。
ノワール流剣術は下段の構え。
主体としている剣術とは違う構えである。
それに俺は何も思わない。全て教え通りに実行をして勝てる程に親父は甘くない。
何故なら、教えられた基本のノワール流剣術を極めまくった人が親父だから。
「行くぞ、親父」
「あぁ、来い。ディニア」
"ノワール流剣術、
天進は速度特化。
今使用可能な俺のどのノワール流剣術の中で一番の速度を出せる技。
だから、この技を選んだ。天進から他の技へと繋ぐために。
どの技よりも、この技が最適と判断したから。
しかしだ。相手は俺よりも戦闘経験が豊富な親父。
この一手は容易に想像できる一手であったらしい。
親父の手元にある木剣でこちらの木剣を弾かれ、俺の体は無防備になる。
「中々に良い技だが……それは連続攻撃中に限られる。初手としての天進程、効かないモノはない」
"ノワール流剣術、
無防備な体に木剣の突きが入る。
身体能力も、技の練度も。全てが俺とは別次元にある親父の一撃は、俺に深く刺さった。
ふー、はー、きっつ。
分かっていたけど、威力が段違いすぎるぜ。
《壊空》ねぇ…今の俺にゃあ不可能な技だ。
圧倒的なパワーと卓越した技術。
どちらとも俺が持ち合わせていない代物が必須条件。
一撃一撃が実力差を体感してしまう。
何とも悲しき事か。ま、それで諦める気なんて無いけど。
"ノワール流無手剣術、白滑"
白滑は空間を捻じ曲げる。
それは木刀などの武器を使用した状態でもそうだが、無手の場合、その効果を底上げる。
頑張って無手の白滑を獲得した甲斐があったというもの。
一歩ずつ、一歩ずつ。
無手を使用できないから、まずは基礎から叩き込み。
魔力の回転すら習得していないから、石ころなんかに魔力を付与させ、緩やかに回転させる。
本当、血反吐を吐くような努力だった。
「凄まじい努力だな。練度がその歳では信じられない程に高まっている。そんなに急いで……どれだけ強くなりたいという気持ちが強いのか」
「そりゃ憧れだからな。……あと、俺は急いでなんかねえよ。一つ一つの自分のできる事を刻んでいき、目の前にある目標へと緩やかに進歩を踏んでいく。つまり、俺はゆっくりにしか歩いてねえよ」
「それはグランの……ふふ、妬けるな」
何を言ってんだか。
親父がグランを世話係にしたし、その世話係に俺を任せっきりにしたのも親父だろう。
妬けるどうこう言ったって、全ては親父の責任だろう。
"ノワール流剣術、
"ノワール流剣術、黒乃仁"
ノワール流通しのぶつかり合い。
俺は超強力な一撃に賭け、親父は二度の衝撃に賭けた。
その勝敗、それは…
「あー、クソだわ。どんな難易度してんだか」
一撃で破られ、二撃で体に衝撃を与えられた。
完璧な敗北である。
***
「これならば大丈夫そうだな」
「なーにが大丈夫なんですかねぇ」
「なぁに、気にする必要はない。お前に提案があっただけの事」
こーの口下手め!
なーにが「気にする必要はない」だ!んなもん言われたら気になるに決まっているでしょうが。
そんなんだから冷徹侯爵って言われんだよ。
「ふむ、そうか。気になるか。なら、本人に説明をしてもらうとしよう」
「は?本人?」
「それは……僕のことサ!」
頭上から風の魔法が急に生じたと思えば、人が割と早い速度で降りてくる。
いや、この場合は落ちてくるの方が正しいのか?
そんな思考が頭の中を通っていれば、着地した地面には砂埃と豪快な音が発生する。
うーわ、けむてぇ。
強力過ぎる風魔法で酔いそうだし、親父関係は濃いヤツしかおらんのか。
「僕とした事が少々派手に登場してしまったね。誠にごめんなさい!それでは和解の握手を!」
なんだ、この黒猫の獣人。
言動と行動は思いっきりふざけてる。
ただの、露出度が高いだけの女性。
それなのに、どうして警戒心を抱かせる!?
親父みたいに立っているだけで剣圧を感じさせる訳でもない。
膨大な魔力を感じる訳でもない。
でも、この人は俺に感じさせている。得体の知れない、漠然とした恐怖を。
グランの時も、ミカの時も。こんな訳分からない恐怖は抱かなかった。
魔法使いとして、次元の違う格上を見ているとでも……。
「えぇ、和解の握手です」
「うんうん、素直な子で僕ちょー助かる!この捻くれ者の遺伝子が入ってるとは思えないね。いや、入ってはいるか。僕を見極めようなんて、大層な度胸だね!」
あのさー、少年相手に威圧するとか恥ずかしくないんですか?
まだまだ強さを知らない少年はねぇ、んなもん喰らったら倒れんだよ!
まだ魔力酔いを引きずってるってのに。
それにだ。魔法使いってもっと陰湿にやるもんだぞ。
そんなんじゃあ真っ当に向かう冒険者何ら変わらないではないか。
あー、こわ、むり、吐きそう。
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