第8話(ミカ) 危険な甘さである
「ディニア様」
「どうした?」
10という同じ歳にも関わらず、身長が上に行っているディニア様。
少し困惑の視線を抱えながらも、温かい慈愛を持って接してくれるディニア様。
私のような者が側にいて良いのか…そう迷ってしまう人。
「呼びたかっただけ、と言ったらどうしますか?」
「そっか、嬉しいよ」
私のわがまま。それすらも受け入れて、飲み込んで、抱擁してくれる。
私が出会ったどんな人よりも愛が深く、情に深い。
助けた縁から、こんな私をノワール家の屋敷に居座って良いと言ってくれたました。
そんな優しいディニア様と出会ったのは数ヶ月前に遡ります。
神聖国家エクスプリズムの一部の神官に嵌められ、マギリアルと共に助けの来ない別国へと飛ばされたのです。
頑張ってきたと思っていました。私ができる事を精一杯努力してきたと思っていました。
けれど、世はそう思ってくれなかったようです。
自分を恨んでいたあの神官の声が、未だに脳へとへばり付いています。
私の立場が気に入らなかった、と言っているのが最後に聞こえました。
そんな状況、助けてくれたのがグランさんとディニア様。
あの救出劇。今でも夢となって思い返す機会があります。
樹木のマギリアルに拘束され、命が消えそうな時でした。
グランさんが斬撃を繰り出し、拘束が解けたところにディニア様が私を空中で抱えました。
あの時の暖かみ、ディニア様以外では感じた事のない温度。
__だからなのでしょうか。今でもあの時が鮮明に思い出せてしまう
最悪、死んでいたかもしれません。
それでも、御二方は引くことはなかった。私のような者の為、全力で命を張った。
だから、私はディニア様を信じらるのです。
「ディニア様、近くによってもよろしいでしょうか」
抱えられていた事を思い出していたら、現実の方の私もディニア様が恋しくなってしまいました。
「許可なんて要らないって言ってるのに。膝、乗る?」
「乗ります」
私の早すぎる返答にディニア様は苦笑をしますけど、私が座りやすいように体勢を崩す。
婚約者でもない女性の為に胡座をかくなんて、貴族にはあるまじき姿です。
けど、私はその貴族にはあるまじき姿が好き。
「むむ、むむむ、むむむむ…ふー」
「ミカって本当に俺の膝が好きだよね」
はい、ディニア様のお膝がとても好きなのです。
同世代(私比較)と比べれば硬く、座り心地は良いとは言えません。
しかし、後ろにディニア様という存在を強く感じられます。
その過程には位置の厳選という道が待っていますが、その先にディニア様が待っていると思うと乗り越えられるのです。
…いえ、乗り越えられるは苦行のように聞こえてしまいますね。
私が苦戦している姿を見て、ディニア様は笑います。
私が傷つかないように、こっそりと。
その姿、直接は見えませんが、私にとっては癒しなのです。
「今日は積極的な気がする。いつもは数段階進んでから膝に乗るけど」
ディニア様の言葉に「そういえば」と内心で頷いてしまいます。
少し前の事を思い出し、触れ合いが恋しくなってからが理由ですが、流石にいきなりでした。
ディニア様も気になる程度ですし、このまま座っておきましょう。
…無理です!自覚をした途端、私の身に羞恥が襲いかかりました。
私の性質と言うのでしょうか。私は段階を踏まなければ「いちゃつく」という行為に羞恥が襲いかかるのです。
私はそれを「恋しい」の感情の元、段階を吹き飛ばしました。吹き飛ばしてしまったのです。
故に、私が羞恥に慣れる事はなく、照れに変化する事もないのです。
うぅ、どうしましょう。乗ってしまった手前、恥ずかしくなったで断る事はあまりしたくありません。
しかし、このままはあまりにも危険。
私の頭がオーバーヒートしてしまう危険性を持っているのです。
でしたら、私のするべき行動は一つ。
適当な理由をつけ、離れるのです。
「ディニア様、すみませ…」
「やだよ」
謝罪の言葉を入れ、適当な理由を吐き、退こうとする初段回。
それに否定の言葉を被せられ、頭部にキスをされ…阻まれてしまいました。
頭部といえども、キスはキス。慣れていようが、慣れていまいが、関係はありません。
強制的にオーバーヒート状態に持ち込まれます。
「俺さ、思うんだよ」
「はっ、はひっ?」
頭部のキスに加えて、耳元で囁かれてしまい、滑舌が急激に悪くなってしまいます。
…滑舌だけではありません。
抜けようと思っていた体はその瞬間に弱まり、抵抗力も一気に削がれてしまいました。
そして、それを見逃す男ではありません。
ディニア様は常に隙を探す。
どんな相手でも、味方でも。
職業病と言えるそれ……今の私にも例外ではありません。
弱った体に腕を回され、一瞬で逃げれないようにされてしまいました。
「ミカってよわよわじゃん。だからさ、もう少し強くても良いよね」
言葉には嬉々が含まれており、顔は見えないけれど、蠱惑的な笑みをしているのでしょう。
ディニア様に惚れ切っている私がかからない訳がなく、一気に炎はヒートアップをしてしまいました。
「ふきゅ〜」
つまり……ダウンしてしまうのは自然の摂理なのです。
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