第7話 思い出である

「ミカ。あのホーリーナイトどうやって召喚したの?めっちゃ強くてクソビビったんだけど」


「あのホーリーナイトですか……分からないんですよね。召喚したのは私ですけど、どうしてあのようなホーリーナイトを呼び出せたのか検討もつきません」


え、マジで?あの、ホーリーナイト、イレギュラーだったのか。そりゃ強えわ。

魔法剣術を使わなければ勝てない訳だ。

まあ、俺の技量が低いと言われたらそこまで何だけど。


「イレギュラー相手。負けても仕方がないと言えるでしょう。しかし、勝ちました。よく頑張りましたよ。ヨシヨシです」


良いんですかい、ミカさんやい。

美少女の撫で撫では俺にとって至宝そのもの。

それを実行されたら最後、俺はスーパー気持ち悪くなるぞ。


「ディニア様がそういう人間だと既に存じております。それでも頑張った証として撫でるのです」


何というか、何と言うべきか。

胸を無性に掻きむしりたくなってしまう。

頑張ったって言われるのは慣れてる。

グランが言ってくれるから。


でも、こういう……褒めて撫でられるってのは慣れない。

どんなに経験しても心臓がバクバクと鳴り、顔にまでその波紋が行く。

いや、顔だけではない。心にまで行き、熱い波動を目覚めさせようとしていた。


論文書いたり、新しい事を探求したり。そんな研究畑の人間だからなのかも。

こんな…甘さを自覚できる程のイチャイチャ。

俺にとって自身を壊す猛毒だ。

でも、辞められない。ミカという甘さを知ってしまったから。


甘い。その単語が俺の頭を行き来し、少し前の出来事が再起する。

ちょっとラッキーで、ちょっと色が付いていて、忘れられない思い出。


「ディニア様?」


「いや、ごめん。こうしてイチャイチャしてると思い出してしまって」


「思い出す、ですか?」


「思い出す」という単語がミカの中でヤマビコのように反響しているようだ。

いつの事だと思い返している姿。

その顔が赤面するのは容易に想像がつく。


あ、なった。

いつもそれに可愛いとか言うけど、今の俺にそれを言える余裕はない。


「なっ、なにを思い返してるのですか!ディニア様の変態!えっち!」


「はい、すみません…」


***


あれは火魔法の習得をする二日前だった。

ミカと逢瀬をする約束をしており、緊張と期待を心に抱えたのは記憶に新しい。


「あ、そういえば」


ついつい、独り言を口にしていた。

それには朝飯をどうするかの相談をしていなかった事を思い出していた方が理由として当たる。

しまったなぁ、ノワール家の長子である俺がそんな初歩的なミスをするとは。

ミカに悪いけど、許可を取りに行くか。


本当に悪いなぁ……ミカ楽しみにしてくれていたのに、逢瀬計画に穴が空いていたなんて。

ミカは許してくれるだろうけど、俺の心情的に許せる要素ではない。

本当何してんだよ、俺!


「ミカ、逢瀬の件で話があるんだ。入るぞ」


「えっ、ちょっ、まってくださ…!?」


ミカの焦る声が扉越しに聞こえるが、ドアノブにかけた手は止まってくれない。

ギギギと音を鳴らしながら開いた先には、焦った様子でこちらを見ているミカの姿があった。

なんて事無かったんだ。ミカが全裸の姿ではなければ。


普段は服装で肌の露出を隠しているミカ。

それにて実感を果たす。俺にとって、ミカは意識すべき異性であると。

その実感と共に、瞳は全裸のミカを焼き付けていた。

日焼けを感じさせない白い肌、少し小さい胸、スラっとした四肢。


全てが魅力。全てが魅惑。


「……!出てって!」


顔を真っ赤にさせたミカは、少しの怒りを加えて言った。


***


いや、うん。本当に申し訳ない事をした。

せめて入る時を遅らせるべきだったんだよな。

そうしたらミカの焦ったような声にも気づけたのに。


「でも、あの件以降からミカからのスキンシップが激しくなったような…」


あ、やば。つい本音が出てしまった!?

け、けけけ、けど、仕方なくない?

よそよそしくなるかなって思ってた次の日にはミカが俺のベットで寝てるんですもん!

というか逢瀬している時もそんな感じだった気がする!


だから疑問に思ってもしょうがないと思うんです。

事実として、俺はそうなってるしね。へへーん!


…これ、結構まずいかな。

本音が出ちゃったとは言え、ミカという清楚ちゃんに態となんてできる気がしない。

つまり、無意識だ。


そんな状態でこんな事言ったら、俺が怒られても不思議じゃない。

どうする、どうするよ俺氏。関係が遠くなるなんて嫌だぞ!

うへぁ!そうして考えてたらミカの顔が熱くなっちゃった!

絶対お怒りモードだぞ。


「ぃ、いつからですか。いつから、私のそれに気づいていたのですか」


「え、逢瀬の時からだけど」


「最初からじゃないですか!私の痴女の姿が最初から…」


あ、そういう感じ?


「全然痴女じゃないと思うけどなあ。スキンシップ恥ずかしがってるし。慣れてないけど頑張ってるの、とってもいじらしいよ」


涙目になっているミカを撫でながら褒めていれば、羞恥の顔が照れの姿へと変わる。

だが、俺は止まらんぞ。いつもスキンシップで照れさせられてるからな!


「あの、ディニア様?そろそろ良いのでは?」


「やだ。頑張った報酬としてミカを甘やかすんだ」


「拒否権は!」


「ないよ!」

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