第一部 秩序のマギリアル

第6話 剣術である

「秩序のマギリアル。俺はお前を乗り越えて、未来を生きる」


「くくく、笑わせてくれる。乗り越えるだと?成したとしても、誰がお前を認める。あの大事件を起こしたお前が、誰に認められってんだ。エェッ!お前の罪は永劫として刻まれ、人々に忌み嫌われ続けんだよ。永遠にな!」


どの口が言っているのか、と思いつつ。

瞳の奥に殺意を据える。


石をぶつけられた痛みも、化け物と言われた痛みも。

噛みたくても噛めない。クソみたいな不条理全てを乗せて。


***


「ディニア様。ディニア様がお好きなのは魔法ではなかったのですか?」


「ん?そうだぜ。俺が好きなのは魔法だ。ずっと昔から変わんねえよ。今更どうして?」


「少し気になったのです。魔法を研究する程好んでいるのに、現在は剣を嗜んでいるのが」


あぁ、そういう事。まあ、数ヶ月の間見てきたミカにとっちゃ気になるか。

魔法使いってのは武術とかに興味はない。己の魔法にしか向かないから。

俺も、一年半前までは同じ気持ちだったなあ。


多分、俺に才能があるってんならそうした。

でも、戦い方を選り好みできる程に俺は才が溢れている訳でもないし、強くもない。

だから俺は武術も取り入れる。卑怯とか、中途半端だとか。色々な意見があった。


でも…俺が最強になるにはそれぐらい必要なんだ。


「最強、ですか……男の子好きですよね。そういうの」


「憧れちゃうからね」


うむうむ、剣筋が良くなってきたぞ。

まあ、ミカが呼び出したホーリーナイトに押し負けているのですが。

いやさぁ、おかしくない?

ちょっとの魔力でどうしてこんな騎士様が生まれるのですか。


これが神に愛された聖女様の力ってヤツ?

魔力を注ぎ込む式が安定しているのもあるんだろうけど。

へーへー、憧れるな。パッと使えて、強くて、魔力消費も少ない。

何と魔法使いの目指す完成形に近い事やら。


召喚系の完成系にも近いか?

わざわざ調教をせずとも、自分で生み出して使役ができるのだから。

加えて、ちゃーんと強いし。

これで百人組手とかやったら、骨が折れそうだ。

……その前に命が折れるかもだな。


「あー、つよ。魔法騎士と戦っている訳じゃないってのに、押されてばっかりだな」


「強いのは分かります。私が作った騎士ですので。でも、勝ってくださいよ?挑戦状叩きつけて負けたなんて、格好悪いにも程があります。私、格好良いディニア様を見たいのですけど?」


ミカに踊らされてるような気がする。

少し色気をまとった言葉で人を動かそうとしている。

俺は貴族。そんな奴等を、ハニートラップを仕掛けようとしている者達を何度見た事か。


巧みに言葉を使い、人を操り人形のように動かす。

あんまり得意なタイプじゃねえんだよな。

だからね、この挑発にも……乗るに決まってますけどぉ!?

そりゃ知らない貴族連中なら別だけど、初めての女友達で相棒みたいなモンだし。


それに…あの件から異性として認知してますし。

あぁ!アレ思い出してたら戦闘に集中できねぇ!


今は騎士だ騎士!


「ホーリーナイトさんよ…俺の相棒さんは格好悪いのが嫌って事だ。お前に勝つ為、俺は今からズルをする」


木剣の先端を地面に刺した後、魔法を発動する。

それは体に属性をまとい、強化するもの。

体からオーラ状に逆立つ属性は土と火。

俺が習得している二つの属性となっている。

習得しているから負担は三割減である。


まあ、それでもめっさ体に負担くるんだが。

体に属性を付与するのがどんなに無茶か分かるな。

神秘とされてるから妥当なんだけど。


「っと、すまないな。ホーリーナイト。少し意識から外していた」

「……!」


やっぱコイツ化け物だろ。

少し油断していたとはいえ、何で二重バフ状態の俺に危なかったと思わせてんだ。

これ、あれか?相手が強ければ強い程上を行くタイプか?

だとしたらヤバ過ぎんだろ。


いや、それが正解と決まったわけじゃない。

ただ本気を出しただけかもしれん。

だったら更に上の力で叩き潰せば良いんだ。

うん、そうだと良いな。


ホーリーナイトから少しの距離を取った俺は息を吐く。

それには魔力がこもっており、肉体の強化の度合いがどれ程が実感させるモノであった。


さぁてと、一閃で鎮めたる。


魔力で強化し過ぎて肉体によって繰り出しされた一閃。

それは繰り出した俺自身にダメージが来る技。

とっておき……だったんだけどなぁ!


これ防ぐってマジかよ。

驚きたいところだが、驚いている暇が無いのが現実。

はー、何とも世知辛い事。


……さっさと立て直すか。

左足が踏んでいる地面に魔法陣を仕掛ける。

そしてその一秒後、左足でもう一度踏む。

正しく愚者の行動。


この場に魔法使いが居たのなら、愚か者と罵声を浴びせていた事だろう。

しかし、魔法を使い、武術を嗜む者にとっては…


「大正解を通ったと思ったんだけどな」


そう、大正解。

自身が仕掛けた罠の魔法陣を踏み、空中から斬撃を繰り出すトリッキー。

反応できる者は限られる。

けれど、ホーリーナイトは容易に対処をする。

どのような人物をベースにしたか知らないが、そこいらの貴族レベルでは無い事は確か。


____本当、優秀過ぎる俺を讃えたいところだぜ。


何故なら、この大正解にを用意しているのだから。


"ノワール流剣術、白滑はっかつ"


その保険の前段階。

現在拮抗している目の前の木剣を弾き飛ばす事から始まる。

否。滑らせ、木剣を正常に構えなくさせるのだ。


手元に木剣を受けていない。

それなのにも関わらず、ホーリーナイトは木剣を手から離してしまった。

その光景に静かに笑みを浮かばせつつ、俺は地面へとしゃがみ込む。


"ノワール流魔法剣術、黒乃仁くろのじん"


クロスした黒の斬撃が空中から放たれる。

剣があれば防げたであろう斬撃。

しかし、ホーリーナイトの剣は斬撃と同じくして空中を舞っていた。

ホーリーナイトに防ぐ術など…ない。


それは、懐から放たれる突きの一撃にも。

万斛と言える程に魔力と属性を木剣に注いだ一撃は、無防御で受け切れる甘い代物ではない。


「勝ち、か。はー、疲れたなぁ」

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