第2話 雑用である

はい、萎えて帰りました、俺氏でございます。

でもー、戦果はありました。魔法使えるようになったからね。

それを親父に報告しようと思ったけど、失礼な事言われそうなのでやめた。

だから信用のある俺の使用人に話してみようと思う。


「なあ、グラン」


「何スカ、坊ちゃん」


「俺、魔法を使えるようになったんだ」


「坊ちゃん……魔法が使えないからって。そんなに拗らせなくても。スイヤせん。おやっさん。これは俺のミスっス」


前言撤回じゃボケコラ。

誰だよ、グランなら失礼な事言わないって言ったの。ゴリゴリに言うじゃねえか。

……俺だな。じゃあ俺の目は節穴か。


自分の落ち度。…でもそれはそれとしてムカつくな。

腹いせとして何かするか。

そうだな、領地中の物件をペロペロし回って、グランに「これは神聖な行為とグランに教えてもらった」とでも言うか。

アイツ結構イタズラしてるから信じるだろ。


「やめてください、坊ちゃん。それは俺がおやっさんから怒られます。せっかく頑張って坊ちゃんの世話係になったってのに、そんな事されちゃ降格っス」


「お前が信じないからだろ」


「スイヤせん。それで?坊ちゃんの魔法ってのはどんな感じなんスカ」


「…これだよ」


ひっそりと持って帰った土を手に取り、両手の中で少し浮かす。

両手に魔法陣を展開し、土の粒一つ一つを変貌させてゆく。

魔力がチリチリと消費されていくのがよく分かる。

本当、この魔法は燃費が悪い。


魔力を一気に削る癖して、戦闘には一切使用できないクソ魔法だ。

土の形とか性質を変化すんなら、もっと強い感じが良かったんだけど。


魔法って楽な道とか無いんだな。

当たり前な事だけど、やっぱメンタル面にクルものがあるよな。


「ふー、終わったぞ」


「へー、これって肥料っスカ?便利な魔法っすけど、あんま攻撃的じゃないっスネ」


「お前、人が気にしてる事をズキズキと。これだから人の心を考えないアホは嫌いなんだよ」


そう言っても、コイツはヘラヘラしやがる。

はーやだやだ。これだから彼氏にしたくない男ナンバー1とか言われんだよ。


そんな不満心を抱いていれば、グランは俺を寝かしつつ、肥料を回収していく。

重要な素材だから持ってきますってか?


これだから親父の直属の部下は。

けっ!ぺっ!けっ!


「坊ちゃん、ツバ吐かないでください。普通に汚いんスケど」


うるっせ!お前に正論言われると気持ち悪いからやめろ!


***


「お前、騙したな……!」


「何を人聞きの悪い事を言うんスカ。俺は本当の事を話しましたっス」


「どこなだよ…!『坊ちゃんの魔法の件で頼みたい事がある』なんて魅力的な誘いをしておいて。お前がッス口調付けないから真面目な話だと思うだろ!」


「酷い言いがかりっスネ。俺の言葉は今をその通り指してますよ」


呆れた風に言うグランに、否定ができない。

グランの言葉に勝手に期待して、勝手に裏切られたと感じている。

グランにとって理不尽であり、俺にとっても身勝手だと思う。


でもさァ!やっと手に入れた魔法を活用できると思ったら、肥料変換係だなんて思わんだろ!

もっと有効活用してくれると思うじゃんかさあ。

魔法を扱いたいとかいう馬鹿をやり通した男だぞ、舐めるなよ!


「なんでそんな言われにゃならんのっスカ。そもそもの話、ココには坊ちゃんよりも強いヤツ山ほど居るっス。そして、幼い幼い坊ちゃんを戦わせたらならない。そういう心は持ち合わせてますっスよ。俺たちは戦いの道を選んでも、人の道…倫理は捨ててないっス」


知ってるよ。親父やグランは戦いの道を選んだ、数多な命を屠ってきた。

それでも、子を戦わせようとしない。そんな人だから、多くの人に慕われてるって事も。

俺はよく知ってる。


まあだからと言って怒りは止まんないんだけどさぁ!

せめて派手な特訓させろ!こんな地味と地味の積み重ねみたいなヤツ、俺は嫌じゃ!

肥料変換の魔法結構魔力を食うし!


こんな魔法してたら、最強の魔法使いに近づけない。

近道を少しでもしないと……俺は早く最強になりたいんだから。


「一つ。強くなる上で、一つ覚えとかにゃならんモンが一つある。坊ちゃんみたいな若い世代は派手を求む。早く成れるように、人生を生き急いで、近道を見つけようとする」


「だがな、そんな生き急いで何になる。時限爆弾を心臓にでも設置されて、早く目的を達さなきゃ死んじまうのか?悪いが、俺の出会ってきた奴らはそんなんじゃ無かった。ただ、ただ。理由もなく生き急いでいた」


「人生短いからと言う奴も居る。しかし、それは根本的な理由じゃない。その根本的な心は、分からない上の焦燥。まあ、つまりだ。分からないなら分からないまま放っておこう。原因解明しようとしても、窮屈になるだけだぜ?」


「それにだ。焦燥を抱いて急いだからって、結果はそう簡単に変わるもんじゃねえ。だったら緩やかに歩いてみても良いと思うんだ。緩やかに歩いてんなら、失敗しても次を考えられる。成功も何でそうなったか考えられる。そんなに悪いもんじゃないと思う」


「あとな。コレが最も重要な事だ。クッソ重い目標に対しての最善はない。あっても、その時だか見える光景だ。どっかで崩れてく」


真剣で、多分体験談。そんな、強い言葉をかけつつも寄り添いを感じさせる。

急いでいた俺の心を落ち着かせるようで。

そんなグランが好きだ。チャラチャラしてるけど、大事な場面だったら素直に向き合う。


一人だけ、本気で俺の夢を応援してくれた。

そう実感できる。そう再確認できる。

あぁ、本当に良い大人だよ。いつもチャラけてるけど、ふざけてるけど。

こういう時、本当に頼りたくなる。信じたくなるんだ。


「塵ツモ、ってヤツっスネ」


「略すな、アホ。変えた肥料全部灰に変えんぞ」


「やめてくださいっス!」


お前は笑わせてくれるし、間違ってたら正しい方向に戻してくれる。

本当、そういう所が信用できるんだ。

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