第97話
顔なんて見なくても分かる。
声なんて聞こえなくたって分かる。
そこに誰がいるのかを確信しながら戸の方を見つめていると、その戸はスッと遠慮なく開けられた。
「———…!」
「よぉ、エリカ」
「……」
戸を開けたそこから部屋の中のこちらを見つめるのは、やっぱりあのクソ豚野郎だった。
四十代半ばであろうその男はいつ見ても口元がいやらしく緩みきっていて気持ち悪い。
「お前一日中スウェットでいたのか?もう夕方だぞ」
いつも据わっているその目はどこを見ているのかもよく分からなくて、私と目が合っているように見えるけれどよく見ると全く合っていない。
変なクスリでもやってんじゃないかな、コイツ。
何でそんなニヤニヤしてんの…
「……」
「おい、何か言えや」
「…ノックくらい…してください…」
男はフンと馬鹿にするように鼻で笑うと、私の言葉が聞こえなかったのか、
「これやるよ。クリスマスだからケーキ買ってきてやったぞ」
そう言ってケーキが入っているであろう小さな箱を顔の前まで持ち上げた。
それでも私が何も言わないと、その男はケーキの箱を持ったまま私の部屋に入ろうとした。でも、
「っ、入らないでくださいっ!!」
私の叫び声に、男は踏み入れようとしていた足を止めた。
「…あん?」
男の低い声に、全身に鳥肌が立った。
「…お母さんなら…隣に…い、ます…」
私の蚊の鳴くような声に、男は盛大な舌打ちをすると私の部屋の戸をイラついたようにガンッ!と閉めた。
そのまますぐに隣の部屋へ入って行く足音が聞こえた。
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