第96話

私は家に帰ると、自分の部屋の窓を開けて貰った鉢を外に置いた。


ここなら日当たりもいいし水だって毎日あげられる。



それに聞かせたくないあの雑音も、窓を閉めればそこまでは聞こえないはずだ。




私はお兄さんに言われた通り、土の表面が乾くとたっぷりの水を与えた。



三日もすれば、私の中にあったこの鉢に対する愛情は想像以上の大きさになっていた。



学年主任はこの前の宣言通りあれから何回かうちを訪ねてきたけれど、お母さんの調子は変わらなくて結局面談は実現できないまま私達の学校は終業式を迎えた。



「別に二学期中にしなきゃいけないわけじゃないから。僕は諦めないから」


そう言ってこれからも頻繁にお母さんを訪ねる気満々の学年主任は、なんて諦めが悪い人なんだろう。


…というより、引くに引けなくなったって感じ?


別に誰も責めたりはしないからもう放っておけばいいのに。




冬休みに入ったはいいものの、大してやることもない私はクリスマスの今日も朝から一人で暇だった。


もう夕方だというのに、私は一歩も家から出ていない。


今までももちろん学校がない日は暇だったけれど、今回のそれは今までのとはどこか違う気がした。


理由ならはっきりと分かっている。



自分の部屋の窓を開けてお兄さんに貰ったガーベラの鉢を見ると、最初よりもほんの少しだけ葉っぱが伸びていた。


私はそれを見ているだけでワクワクした。


何時間でも見てられるな…


私が窓のサッシに両腕を乗せてぼんやりとその鉢を眺めていたその時、



———ガチャンッ!!



勢いよく玄関が開く音とドンッドンッといつもの遠慮のない足音が私の部屋の戸の向こうから聞こえてきた。



アイツが来た…



始まる———…



私はガーベラを守るために、すぐに窓を閉めた。

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