第95話

「改めて考えてみるとせっかく買ってくれたのに申し訳なかったね。“ちゃんと言ってくんないと分かんない”…その通りだと思う」


「私が言ったこと根に持ってるの?あんなの私が勝手に枯れた責任押し付けただけじゃん。わざわざこんなことまでしなくていいのに」


たった一本の花を買ったくらいでわざわざ長持ちする方法まで教えてたら、店員さんだって大変だ。


それに花を花瓶に挿すのなんて常識だし。


私にだってそれくらいの常識はあった。


でも、ちょうどいいものがなくて結局どうにもできないうちに枯れちゃっただけ。


あれは完全に私のせいだ。



でも、お兄さんはそんな私を責めようとはしなかった。



「根に持ってるとかそんなんじゃないよ。むしろありがとう。言われなかったらずっと気付かなかったから。今回は鉢植えだから咲き始めから枯れるまでしっかり観察できるよ。秋を過ぎて地上部が枯れても春にまた芽が出るから。ちゃんと管理すれば、毎年花が咲く」


お兄さんはまだ納得のいかない私をもうあまり気にしてはいなかった。



「…もう私が育てるの決定なの?」


「うん、決定。待ってね、今袋か何か」


「ううん、いい!」



また店に戻ろうとしたお兄さんを、私は止めた。



「家近いから、このまま持って帰る!」


「でも制服汚れない?」



それで言うなら受け取った時点でちょっと汚れたし…元々そんなに綺麗にしていたわけでもない。



汚れていたものがまた少し汚れただけ。



「平気!」


さっきまで全然乗り気じゃなかった私も、気付けば腕の中にあるこの鉢がすっかり愛しくなってしまっていて、私は笑顔でお兄さんにそう言った。


それがお兄さんにも伝わったのだろう。


「うん、わかった」


お兄さんもまた、嬉しそうに笑った。

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