第94話

でも、そんな私とは対照的にお兄さんはフッと優しく笑った。


「大丈夫だよ。これガーデンガーベラっていうんだけど、普通のガーベラに比べて暑さや寒さ、病害虫にも強く改良されてるものなんだ。水やりを続けてたくさん日を当ててあげるとちゃんと新芽が出て春には花が咲くから」


そこまで言われてもまだまだ不安な私に、お兄さんは優しく「大丈夫だから」と言葉を付け足した。



「でも…」


「水やり難しい?」



それはできるけど…



「私、水やりだけでいいの…?」


「うん。今の時期は暖かい時間帯にすればいいよ。逆に真夏は朝の涼しいうちか夕方以降の暑さが落ち着いてから。土の表面が乾いたら株元にたっぷり水あげて?ガーベラは過湿に弱いから、梅雨の時期は雨のかからない場所に移動させようね」



お兄さんの話はどんどん先へ進んでいるけれど、私は何度考えてもちゃんと花を咲かせてあげられる自信がない。


ましてや今なんて土からこんな小さな葉っぱが出てるだけなのに…


この葉っぱすらも三日で枯らしちゃいそうだよ…




「本当に…咲くかな…」


「咲くよ。もし葉っぱばっかりが茂って花が咲かない場合は葉を少し整理して、花芽がつく中心部分に日光を当てる工夫が必要になるんだけど…まぁもしそうなったら俺に言ってよ。追肥とかも必要な時期になったら俺がやるからさ」


お兄さんはすごく自信満々だった。


ガーベラってそんなに育てやすいのかな…



土から顔を出すその小さな葉っぱをじっと見ていると、自信のない私も不思議とそれを可愛いと思えてきた。


今はただの葉っぱしかないのに、あんな花が咲くんだ…植物ってすごいな。



「…ごめんね」



私が腕の中の植木鉢をじっと見つめていると、お兄さんの申し訳なさそうな声が届いた。


顔を上げるとお兄さんはやっぱり申し訳なさそうな顔をしていた。



「前にガーベラ買ってくれた時、ちゃんと長持ちする方法とか教えなくて」


「え?」


「初めて話したとき、俺のガーベラの話にすごい感動してたでしょ?」



感動はしてないけど…

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